「金色の砂漠」キャストの感想 − 明日海りおと彼女に続く生徒たちに期待

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前記事からの続きです。

1995年ごろまでには完全に止まってしまった僕の宝塚観劇ですが、去年再開してからいくつかの観劇をした中でストーリー性のある「宝塚オリジナル歌劇」をナマで見たのは、この「金色の砂漠」が初めてです。「ミー・アンド・マイガール」や「ローマの休日」はもととなるオリジナルがありますから、その範疇ではないのです。

その最初の宝塚オリジナルがこの作品だったのは、ラッキーと言うしかありません。花組の層の厚さ、もっと詳しく言えば何人かの生徒さんたちの「風の次郎吉」のころからの成長が見られて、とても興味深かったです。

 

明日海りお

 

まず、トップの明日海りおです。
僕が彼女を観たのはこれで2回め。最初は「ミー・アンド・マイガール」のビルでした。あのときは、最初のチンピラ下町っ子の部分に馴染めず、後半に貴公子になってからのほうがはるかに肌にあっているように見えました。

今回は、奴隷と言えど実は滅ぼされた国の王子だったひとです。どことなく漂う気品はこのひとの持ち味ですし、身分のせいで卑屈になるわけでもなく、優雅でしかも悲劇性の漂う役作りとなっています。子供時代から10代後半の多感な少年へ、そしてそれから7年経ち憎悪にまみれた盗賊の首領になるという、いわば3つの時代を作り分けなければなりません。そんな難しい年齢の移り変わりを素晴らしい演技力で表現しています。子供時代はあくまで純真に、そして少年時代には大切に思うひとに対する感情が「与える愛」から「征服する愛」へと変化し、辛い体験のあと成人して砂漠の盗賊となります。明日海りおは、その愛、苦悩、悲嘆、憎悪、そして最後の浄化を見事に舞台の上で訴えてくれました。

雰囲気が元々「少年のようなひと」ですから、暗い悲劇の中でそれがどのように翻弄されて行くのか、観ている僕たちまで胸を抉られるような悲しみを味わいました。
歌も安定していて、切々と歌う主題歌にはとても惹かれます。

 

花乃まりあ

前記事にも書きましたが、これは花乃まりあの当たり役と言えそうです。美しく誇り高く傲慢で、ギイに対してもテオドロスに対しても全くその姿勢を崩しません。ギイの愛の強さと欲望に屈するまでは。砂漠の国のエキゾチックな衣装もよく似合っていて、下ろした髪も彼女の横顔を覆ってとても美しいです。

 

芹香斗亜

 

「ミー・アンド・マイガール」ではジョン卿を演っていたひとですね。あのときは初めてみた男役だったので、こんなに若いとは知りませんでした。味のあるいい演技をしていた、と当時僕は書いています。

今回もギイより若いジャーであるにもかかわらず、思慮深く遠慮がちな役になっています。こういう役は上手いのですが、二番手スターとしてはもう少し華のある役も見てみたいと思いました。すらりとして美しく、歌も上手く、スターになるべく生まれたようなひとですが、何かひとつ足りないと思うのは僕がまだ他のもっとアクの強い役を演じる姿を見ていないからかもしれません。二番手でいる間に、もっと色々な顔を(つまり悪役なども)見せてほしいと思いました。

 

柚香光

 

大変美しいひとで、今回のテオドロスという隣国からの婿養子として光っていました。テオドロスは「愛のひと」ではなく、現代的で聡明で計算高い男性です。

だからこそ、ギイと駆け落ちしようとしたタルハーミネを妻として迎えるのは「王家の誇りを汚した王女」を救うためというより、ここで恩を売り次の王位を得るほうがはるかに自分の得となると考えました。ですから国が滅ぼされその王位への夢が消えたとたん、さっさと自国へ戻る道を選んだのです。

キラキラと輝くばかりの美貌とその衣装が目立ち、立ち姿も実に素晴らしいのですが、滑舌がいけません。僕がジジイだから耳が劣化しているのかもしれませんが、語り部としての役割もあってセリフが多いのに、その半分ほどが観客に理解できないのです。

同じようなことをミーマイのジャッキーのときにも書いていますが、路線スター街道をまっしぐらなのですから、さらなる精進をお願いしたいと思います。

 

鳳月杏

 

恵まれた肢体と風情で、ジャハンギールという威厳のある王、征服者としての横暴さと残虐さをも併せ持ったひとを好演していました。

もっとお年を召した専科の方に与えられるような役でもありますが、鳳月杏はその若さゆえの色気もたっぷりあり、現王妃のアムダリアが結局愛するようになったのもわかるような気がしました。

歌も確かで、聴いていて安心感があるのも「雪華抄」で証明しています。

 

仙名彩世

重要な役ではありますが、あまりにも出番が少ないので、時期娘役トップとしては物足りなさを感じました。

彼女は今までもこうした「年上の女性」役が多かったのでしょうか。トップお披露目も「仮面のロマネスク」ですから、これからもっと違う役柄でトップとしての枠を拡げてほしいと思います。「風の次郎吉」の手妻の幸のような明るく生き生きとして役を、彼女の美しい声と仕草で見せてほしいものです。

 

瀬戸かずやと天真みちる

 

瀬戸かずやは、出番が少ないながらも、若手奴隷三人組(明日海りお、芹香斗亜、瀬戸かずや)の中では一番ものをハッキリと口にする快活で憎めないひとです。悲劇の中で、ひとりだけ一服の清涼剤のような役割を果たしていました。

天真みちるは、ミーマイのときの執事もそうでしたが、妙に存在感のある脇役です。

今回はセリフも多く人柄の良さが滲み出る演技で、ビルマーヤが結婚を決意したのもわかるような気がしました。こういう若手の実力のある脇役候補は大切に育ててほしいと思います。今いる専科の芝居上手は、年齢が上がってきています(僕が彼女らの名前を知っているくらいですから)。

美城れんをなくした今、次の世代として彼女のような生徒が必要になってくるのではないでしょうか。

若手の中では、過去の出来事で若き日のジャハンギールとアムダリアを演じた飛龍つかさと華優希が印象的でした。特に、華優希の透き通るような美しい声が耳に残っています。

こうした宝塚オリジナルは予測のつかない(または予測可能な)ストーリーを追う楽しみがあり、それは各々のキャストたちの実力をみるよい機会でもあります。次回の出張でどんな舞台が観られるのかまだまだわかりませんが、日本に行く楽しみが増えたことに変わりありません。

それまでは、買いためた北翔海莉のDVD/BDを観ながらひっそりと頭を低くして過ごすことにします。

 

 

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