前回の記事で書き残したこと。
明日海りおはなんと美しいのでしょう。
劇団側ではもちろん組の特徴やトップの質に合わせて舞台を選んでいるのでしょうが、今回明日海りおを観たかぎりでは、今のところ誰も彼女以外にエドガーを演じられるトップは存在しないと言ってもいいでしょう。
明日海りおの場合、その中性的な美しさと華奢な身体がエドガーという「永遠の少年」を演じるにふさわしいのはもちろん、いつだって人間に戻りたかったバンパネラとぞっとするほど残酷なバンパネラとしての相反するエドガーの特徴を見事にとらえていました。そして、あれはカラーコンタクトレンズなのかな?と思いますが、目の色まで青く変えていたのですね。妖しく光る眼差しも見せてくれました。
発声も少し変えて低音を抑え、少年の声に聞こえるように工夫していたようです。
いずれにせよ彼女の芝居と歌は実に安定していて、観客がハラハラすることもなく安心して舞台に集中できるのが強みだと思いました。
そして、娘役トップの仙名彩世。
僕は彼女がトップになってからの舞台を一度も観たことがないのですが、「風の次郎吉」でのお幸は今でもよく覚えています。
昨年末に退団の記者会見をしたということで2年という短いトップ期間でした。芝居も歌もダンスも飛び抜けて上手い94期生首席という娘役だっただけに、もう少し活躍してくれてもよかったのではと思いました。華やかな95期の男役の面々が「これから」ということを考えると、娘役人生はなんと短いのでしょうね。
「ポーの一族」ではシーラというエドガーの継母の役を演じました。
原作では「美しくて優しくて…」ということ以外あまり丁寧に描かれていませんが、この舞台ではもっと慈愛に満ちた女性として登場し、エドガーをとても気にかける重要な役となっています。美しい声は舞台で伸びやかに広がり、優雅な仕草とともにクリフォードが恋に落ちるのももっともだと納得できるほどです。
彼女の芝居の実力を垣間見る思いだったのは、シーラとクリフォードが嵐と雷を避けて小屋で口づけをする場面です。クリフォードを襲おうとするときに、今まで優雅な仕草と優しい眼差しだったシーラがいきなり豹変してバンパネラの恐ろしい眼になり、首に噛み付こうとします。この豹変があまりにもすばらしくて、たった数秒の出来事なのに強く印象に残っているのです。
こうした演技力と歌唱力を持って、仙名彩世は退団後にどんな未来をみているのでしょうか。気になりますね。
さて、二番手の柚香光です。
僕が最後に観た花組公演「金色の砂漠」のときからくらべると、かなり滑舌がよくなっています。それでもちょっと気を抜いたときなどは、発声の強弱のせいで聞き取れないことが数回ありました。歌は…精進が必要ですね。せめて音を外さないで一曲歌いきってほしかったです。
柚香光のアラン・トワイライトですが、残酷な家庭事情のせいで寂しい心を隠して傲慢に振る舞う少年です。その悲しみが観客に伝わるような演技でした。あまりにもすぐにエドガーに心を許してしまうのは時間の関係上仕方のないことかもしれませんが、アランのわがままな性格がそこには描かれず、むしろ仲の良い関係となっています。
鳳月杏のクリフォード。
原作よりも「いいひと」に描かれているのも影響しているかもしれませんが、シーラとメリーベルを殺すところでは、それほど劇的ではないように思いました。多少女好きという面もありましたがそれほど軽い性格でもなく、むしろシーラに恋したことが自らの破滅を招いたのだと思います。原作ではもっと取り乱していて、その激情のままに行動する男でしたので、意外な役作りに見えました。
しかしこのひとは立ち姿が美しい。以前からそう思っていましたが、黒髪も大変似合っていてすっきりと男らしいです。クリフォードに今で言う「チャラい」雰囲気があまりなかったのは、彼女の風情のせいかもしれませんね。
華優希のメリーベル。
ちょうどこのDVDを観ようと思ったときに彼女が次期娘役トップだというニュースが入ってきました。それだけにどんな娘役なのかとても興味をもっていました。
メリーベルという役柄は「エドガーに全面的に信頼を寄せる13歳の少女」ですから、可憐な容姿と子供らしい話し方でまさにメリーベルを三次元の世界に出現させてくれました。この声をどうやってこれから様々な役柄(妖艶だったり可憐だったり清純だったり)に対応させるのか、今年からの彼女の舞台に期待したいと思います。歌はほんの少ししか聴けませんでしたが、まだまだ修練の余地があるように見受けました。
また、その他大勢のギムナジウムの学生たちを演じた生徒さんの中に、以前僕が「オデコで笑顔が元気な背の高い子」と書いた亜蓮冬馬がいました。たぶんロケットの真ん中で踊っていたのも彼女だと思いますが、少々遠すぎて確認できません。
目立つ生徒さんでしたが、昨年末に退団したと聞きました。ポツポツと役がついてきた時期なだけに、少々残念に思いました。
しかし、若手の男子生徒役の中にひとりも滑舌と歌の秀でたひとがいないというのは、うーん、これからの花組のために何とかしてほしいです。
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