中山可穂の宝塚小説「男役」を読んで思ったこと

宝塚あれこれ
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なにぶんたまにしかナマで観られないし、しかもスカイステージが見られない海外住まいでは、情報が僕のアタマに届くのが遅れることもしばしばです。

こんな小説があったことさえ知りませんでした。中山可穂の「男役」です。

僕は恥ずかしながら彼女の小説は今まで一度も読んだことがありませんので、今回海外からでも一瞬でダウンロードできるアマゾンのKindleから購入してみました。中山可穂版「オペラ座の怪人」とまで呼ばれたヒット作だそうです。

研3で新人公演主役を射止めた永遠ひかる、月組男役トップで退団をひかえた如月すみれ、そして50年前に舞台での不慮の事故で亡くなった扇乙矢という宝塚男役3人に焦点を当てて書かれています。男性であり男性ではない存在の男役、宝塚だけにしか存在しない気高く崇高で完璧な男性としての姿を具現する男役を演じることの幸福、挫折、そして悩み。作者は詳細に心の襞にまで入り込む手法で、語彙鮮やかにそれを描いていて一気に読んでしまいました。

男役トップとしての悲哀と孤独、そして退団後に「何の役にもたたない男役としての矜持」。せつないですね。

ただし、ひとつ「劫罰(ごうばつ)」という難しい語彙が出てきてビックリしましたが、地獄の苦しみを味合わせる「罰」といういう意味で「ファントムさん」がなぜそんな「罰」を受けなければならないのか、どうにも理解できませんでした。「罰」を受けるような罪を犯したひとは誰も存在しないからです。むしろそれは「業」に近いものと僕には感じられました。

そして、読み進むにつれ「主人公」が一体誰なのかわからなくなり、少々居心地が悪くなります。これはどの人物も三人称で描かれてはいるけれど、焦点は彼らの心の中にあり、それが脈絡なく移り変わるからだと思います。男役それぞれの孤独を描いているとも考えられますが、最初「主人公」だと思っていたひとが、最後には全くその進退にさえ触れてもらえず、一体誰のことが書きたかったのかという疑問が残りました。

 

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しかしながら、心に残った一文があります。

千秋楽とは失恋の痛みを分かち合い、みんなと一緒に心の底から泣くことによって恋する男役スターと別れを告げ、彼女のいないこれからの人生を受け入れる覚悟を固める厳粛な儀式の場なのである。

ああ、これはわかるなあと思いました。
僕は北翔海莉の退団公演のときに、そうした雰囲気を、その場にいたわけではなくとも、ネットの中でさえ感じることができましたから。
というより、最近の89期の立て続けのスター退団(七海ひろき、美弥るりか)で切実にそう感じているひとがたった今沢山いるのではないでしょうか。

それにしても、芸名が…。笹にしきに夢ぴりか、ですか。前者は甲にしきを意識しているのかとも思いましたが、著者は若いのでたぶんそんな大昔のトップスターを知るはずもないでしょうね。もしかしたら、あまりにもありそうな名前にすると熱心なファンが実在する生徒さんに繋げて意識してしまう、という危険を避けているのかもしれません。

想像の部分が多いと作者はあとがきで語っていますが、それでもファンと生徒さんたちの交流や新人公演の仕組みなど、僕には内部を垣間見る思いで大変興味深い小説でありました。

 

 

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コメント

  1. 椿 より:

    笹にしき、夢ぴりか…お米の銘柄ですねw
    敢えて、実在のスターと被らせないようにしたんでしょうね。
    中山可穂さんの、3部作なのかな?は読んでないので、今度図書館で探してみようと思います。

    • zukamen zukamen より:

      ものすごく面白いというには少し構成に問題があるような気がしますが、これが彼女のスタイルなのかもしれませんね。
      しかし、夢ぴりかってのもお米の銘柄だったんですか!