2015年星組「ガイズ&ドールズ」ー妃海風と紅ゆずる、そして初演の黒木瞳

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北翔海莉の相手役として一緒に退団してしまう妃海風ですが、僕が彼女を初めて見たのは柚希礼音の退団公演「黒豹の如く」でした。もちろん映像ですが、紅ゆずる演じる悪役の愛人役で踊り子としてのダンスが官能的だったのを覚えています。
その彼女が演じるサラはガチガチのクリスチャン、悪の権化であるギャンブラーたちを毛嫌いしています。そんな彼女が初々しく恋に堕ちてしまったのが、なんとギャンブラーのスカイ・マスターソン。揺れ動く恋心を信じたくない思いとそれでも惹かれてしまう戸惑いを、妃海風はとても繊細に表現してくれました。

サラ役は、初演が黒木瞳で再演が映美くららです。妃海風はその確かな音程とよく伸びる発声で、歌に関してはやはり先輩たちの上を行く実力です。
妃海風のサラは特にハバナで酔っ払った場面が切なく愛らしいのです。酒のせいで固く身を包んだ宗教の鎧が外れた乙女の心情の発露とも言うべきでしょうか。
酔っぱらい場面は難しい演技だと思います。再演ではこちらを映美くららが紫吹淳を殴ろうとしたり、いやにコミカルな場面として扱っていましたが、妃海風はここをあくまでも酔っていても愛らしく、スカイも恋に堕ちてしまったのにそれを知らずに酔いとハバナを楽しんでいるように見えました。

僕は普段の彼女らを舞台の演技と重ねることはしたくないのですが、ここには確かに北翔海莉と妃海風の相性の良さが現れていると思います。英語ではChemistryといいますが、何となくウマが合う、男だろうと女だろうと性に関係なく何となく惹かれてしまうのは実際の生活で誰にでも起こりうることです。よく酒を飲みに行ったり、という男性同士の友達関係でもあります。
その相性の良さの上に築かれた信頼感が、舞台の上の役に投影されたであろうことは想像に難くないのです。実力もさることながら、見ていて安心できる舞台。これがこのふたりのパートナーとしての強みだと思いました。
さて、紅ゆずるです。
彼女を初めて見たのはやはり「黒豹の如く」で、重厚な悪役としては少々物足りないなという感想を抱いたのは以前その記事に書きました。
ところが、ガイズではチンピラで端金を扱うクラップゲームの元締めネイサン。最初に登場したときから、本当にネイサンそのものでした。悪の親玉ぶっていますが、実は小心者、気が弱くて憎めないヤツというネイサンが見事です。派手なスーツにちょび髭もとても似合っています。表情は豊か、アデレイドの前ではいい男ぶっています。それなのにビッグジュールの前ではかなり卑屈になり、どうしようもないヤツだけれど皆ネイサンが大好きなのです。

以前にも書きましたが、このネイサンはハリウッドで映画にも出ているネイサン・レインの演技が1番有名です。トニー賞の授賞式で再現された舞台の有名な1シーンがこれ。相手役のアデレイドはフェイス・プリンスです。星組の舞台でも、紅ゆずるがアデレイドの礼真琴をパートナーに銀橋の上で見せてくれました。

紅ゆずるのネイサンにはこれほどの迫力はありませんが、歌の実力のなさを差し引いても適役だったという他はありません。このひとは本当にコメディーに向いているのだなと思いました。「桜華に舞え」ではかなりシリアスな役を演じているようですから興味津々、DVD/BDが出たらさっそくチェックしてみます。

さて、「ガイズ&ドールズ」は、以前にも書きましたが過去に3度観たことがあります。最初は1980年代半ばに大地真央と黒木瞳のコンビで、そしてロンドンで、最後はこちらオーストラリアで。

初演の大地真央は本当に奔放で嫌らしくてそれでいて憎めない、今で言う「チャラい男」の代表格のような演技でしたから、スカイマスターソンそのものと言っていいと思います。そして、黒木瞳の愛らしさ。

100周年のコンサートに出てきた黒木瞳はトンデモない歌唱でしたが(大地真央のそのときのド派手衣装にもビックリしましたが)、これは現在では全く訓練を積んでいないでしょうから当然です。でも80年代のタカラヅカスペシャルで歌ったときには、可憐な歌声で声量はありませんがかなり良かったと思います。少なくとも、最近の舞台で目立つ何人かの娘役たちよりははるかに上手かったのです…。

また長くなってしまったので、他の配役については次の記事に持ち越しになります。礼真琴、美城れんの三人組などなど。

 

 

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コメント

  1. ペン吉 より:

    こんにちは。紅ゆずるのネイサン、歌が少々ヘロヘロしているところも含めて(すみません・・・)地に足がついていない、チャラいキャラクターを形成していると思いました。歌が本格的に素敵すぎるまこっつあんのアデレイドと良いカップルです。
    紅さんがコメディに向いている点については心から賛成ですが、
    やはりこの作品が大きなターニングポイントだったのではないかなと思います。
    前トップの時代から一皮むけてはじけているように見えますね。
    これも風ちゃん含め周りの人の才能を伸ばす事ができるみっちゃんの才能ゆえでしょうか。彼女の周りにはいつもChemistryがありますね。
    ああそんな人が退団してしまうなんて。
    ところで話は変わりますが、かんぽ生命のイメージキャラクターが龍真咲の引退を受けて望海風斗になっていましたね。要注目です。
    彼女は宝塚でも有数の真面目な方だと言われています。
    カポネが生命保険を勧めるのも不思議ですが、オフのキャラクターとしてはぴったりですね。

  2. ペン吉 より:

    あ、すみません「引退」でなくて「退団」でしたね。失礼しました。

  3. zukamen より:

    ペン吉さん、こんばんは。
    紅ゆずるのネイサン、結構いいセン行っています。コメディーが合っているんでしょうね。
    ターニングポイントだったかどうかは、他の作品を観ていないので僕はなんとも言えませんが、少なくとも楽しんでやっているように見えました。
    ほう、かんぽ生命のイメージキャラクターは今度は望海風斗ですか。
    素顔の写真も見ましたが、きれいな人ですね。
    企業の「イメージキャラクター」というのは、必ずトップになるというジンクスでもあるのかなあ。それとも、必ずトップにしているのか。そこらへんのところが僕にはまだよくわかりません…。

  4. ピノ・グリ より:

    ガイズは映画を見ましたが、星組の舞台の女役さんの方が魅力的でした。
    紅さん、「面倒くさそうな顔してくわえ煙草」がよく似合って、ガイズでも好きでした。
    桜華では、友情で結ばれながらも立場を異にする、故郷の人たちにも拒否される、
    その苦しみがベタにならずにじわじわ感じられて、とても印象的でした。
    トップになって星組がどんな雰囲気になるのか、ちょっと興味が湧いてます。
    娘トップになる前の風ちゃんを見たことが無くって、色々探してみたくなりました。
    三人組の解説、楽しみに待たせていただきますね。

  5. ストレッチ友理子 より:

    こんばんは!
    ガイズのハバナの場面、私も大好きです!酔っ払った風ちゃんがみっちゃんの膝の上で寝てしまった時のブロマイドは、即お買い上げしました(笑)
    紅さんは、みっちゃんの下で勉強ができて、本当に良かったのでは ないでしょうか?
    今回の桜華でも なかなかいい味だしてますよ。
    4日の公演で3回目でしたが、毎回 素晴らしく進化していて、毎回 必ず号泣してます。
    お茶会にも参加してきました。
    ものすごい人数でした。
    そして、全くシンミリせず、大爆笑でした(笑)さすが みっちゃん!
    これは みっちゃんが スカイステージでも 発言されてるから いいと思うのですが、みっちゃんが トップになってから 組子にアンケートを書いてもらった結果、北翔さんと日本物がしたい!という意見が多く、それが採用されたそうです。
    みっちゃんの日本物 本当に素敵だし、今回は 立ち回りもあるから組子は めちゃくちゃ勉強になったでしょうね〜。
    そうそう!私、ようやく 最初と最後に みっちゃんが 叫ぶ台詞の意味がわかりました。
    何回聞いても わからなかったのですが、プログラムにサイトー先生が チョロっと書かれていました。
    なこよか ひっとべ〜! は、
    泣くくらいなら飛び立とうぜ!
    ひっこめ〜!かと思ってた(笑)
    みっちゃんと紅さんが、
    なこかい!
    とぼかい!と いい合うシーンも
    友かい?かと思ってましたが、
    泣いてるんじゃない
    飛びこもうぜ!でした。
    鹿児島の知り合いに 教えてもらいました(^^;;
    結構 重要な台詞だったわ。
    DVDは まだ先ですが、この台詞の意味を理解してから 観ると より泣けます。
    それにしても あの柚希礼音さん色を全く引きずらず 北翔色にしたみっちゃんは、やっぱり凄い人です。
    今回の作品は、とにかく次へ繋ごう!というみっちゃんの想いが詰まっていて ジーンとします。
    他の人で こんなに感動するのかな〜?
    では、また!

  6. zukamen より:

    ピノ・グリさん、こんばんは。
    映画は当時それほど評判ではなかったようですね。(ちょっと調べてみました)
    紅ゆずるは、役さえ選べば「いいセン行っている」と思います。ただし、ガイズの最後に礼真琴とのデュエットダンスがあるのですが、ここでまた顔芸が出てしまっていました。風と共に去りぬ、のときと同じです。どうもダンスでは「カッコよさを表現するのに」顔で勝負してしまうようなところがあり、ここさえ変えてくれたらなあと僕は思います。
    「桜華に舞え」では北翔海莉の親友役ということでからみも多いらしく、BDを観るのが待ち遠しいです。

  7. zukamen より:

    ストレッチ友理子さん、こんばんは。
    ほう、すでに3回目の「桜華に舞え」、そしてお茶会ですか…いいなあ。
    お茶会ってものに、一度参加してみたいです。いつか。
    確かに北翔海莉には日本物が似合いますね。次郎吉のときと言い、桜華と言い…。
    それから、鹿児島弁について貴重な情報をありがとうございます!
    BDが出たらさっそく予約するつもりなので、これで戸惑わずに済みます。

  8. ムコ より:

    こんばんは!
    うわーーー大地真央と黒木瞳。可愛い。かっこいい。
    これはいいわ。確かに人気あったのもわかる。
    わたしも子供の頃のうっすらとした記憶で何を見たかも
    あまり覚えていないんですが、黒木瞳はさほど歌が下手じゃないと思っていた記憶があったのに、少し前にフジ系列のテレビに出て歌った時にひっくり返りました。
    ええええ、、と。
    わたしの記憶違いだったのかなぁ、、、と思っていたら、、
    やっぱりちゃんと歌えていたんですね。
    それにしても大地真央さん、しぐさとかが超色っぽいですね。
    背も低いし別に男に見えないのに、なぜか男の色っぽさが出てる。不思議。。歌も普通だし。。
    それでもカリスマ的人気があったのはほんの一瞬の、ガタガタしか動かない動画でもわかりました。すごい。
    昔の記憶って美化されがち、と言われますが
    残っている映像があればちゃんと比較できて面白いですね。
    ストレッチ友理子さん、
    そうなんですね!?みっちゃんと日本ものがしたいと組子が言ったんだ。
    そりゃぁ、思ってる組子は多いだろうとは思っていましたが、
    公にそういわれたんですね。
    みっさまファンとしても嬉しいです。
    今回の星組、若手は日本ものが初めての子も多かったでしょうに、
    とってもがんばったんでしょうね。
    さほど危なっかしい子はいませんでしたね。
    みんな腰も入っていて、素人目には皆さんとても決まっていました。
    そうそう、鹿児島弁講座、ちゃんと劇団のページにもありますよ。
    https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2016/ouka/special_004.html#glossary
    とくに
    ◆泣こかい 飛ぼかい 泣こよかひっ飛べ
    はキーワードですね。
    わたしは全く何の予習もせずに初日を見たのでその辺はすっとばして雰囲気だけ見ていましたが、
    次はここの予習ページをわたしもちゃんと頭に入れてから観劇に臨みたいと思います。(笑

  9. zukamen より:

    ムコさん、こんばんは。
    大地真央は本当に色気ムンムンの男役でした、妙に存在感があるのです。
    黒木瞳も愛らしさで群を抜く娘役でしたし。
    歌はもうどちらもダメですね…。
    どちらも歌で舞台に立っているひとたちではありませんから。
    1984年の「ザ・レビューII」などは思い出に残るすてきなレビューですので、一度観てほしいなあ。
    スカイステージでこういう古いのはやらないのでしょうか。

  10. トン より:

    初めまして、宝塚ファン歴浅いおばちゃんです。ひょんな事からスカイステージを契約し、北翔さん主演のメリー・ウィドウの歌、ダンス、お芝居にくぎ付け!
    その後、トップになってからの北翔さんを観劇していますが、一番驚いたのが風ちゃんの歌の成長!北翔さんとコンビでの伸びでしょうか??宝塚大劇場で4回観劇、もう一度観たく東京へ・・・風ちゃんの歌、安定感・声量もちろん声の伸び大拍手でした。公演中のロマンスの一人銀橋での失恋の歌、みごたえアリ!です。

  11. zukamen より:

    トンさん、こんばんは。はじめまして。
    おお、やっぱり「メリー・ウィドウ」から北翔海莉にのめり込みましたか! 
    そういうひとは多いみたいですね、僕も含めて。
    妃海風もなんだかこのごろ輝いています。
    退団というゴールがあるからよけいなのかもしれません…。
    でもこれだけウマが合い、仲の良いトップコンビは見ていて嬉しいです。