雪組の「ファントム」はナマ観劇できなかったために、DVDでじっくり鑑賞しました。
DVD観劇のいいところは、もちろん各生徒さんの表情や仕草などが近くで見られることですね。残念ながら、新進生徒さんをいつものピンクのオペラグラス(ショッキングピンクですが、なにしろ妹に借りるとこれなので…)で追うことはできませんが、ある程度脇を占めるひとたちに焦点を合わせることはできます。
感動してすでに3つも記事を書いてしまいましたが、もう少しお付き合いください。
先の記事はこちらです。
舞咲りんのなんとも憎めない悪女カルロッタ
カルロッタは「ファントム」にも「オペラ座の怪人」にも登場しますが、その役柄は少々違います。「ファントム」では新しい支配人の妻で強引にオペラ座のプリマドンナとなる女性ですが、「オペラ座の怪人」ではすでにオペラ座のプリマドンナなのです。支配人の妻ではありません。
クリスティーヌに恋をしているエリックは、強引に彼女をプリマドンナにしようと劇場に脅迫状を書きます。無視したカルロッタが歌い始めると…カエルのような声に。それどころか舞台には縄でつるされた死体まで落下します。怒ったカルロッタは劇場を去ってしまいます。
ところが「ファントム」では、カルロッタは自分より歌の上手いクリスティーヌを嫌い、薬をのませて舞台で歌えなくさせて恥をかかせます。そして、そのためにエリックに殺されてしまうのですね。
僕は「ファントムはどちらかと言うとセリフの多いオペレッタだ」と書きましたが、そのためか、こちらのカルロッタはセリフもかなりあって「オペラ座の怪人」より大きな役割をになっています。
さて、舞咲りんです。
彼女はこのカルロッタという「悪役」を、徹底的に戯画化して見せます。元々歌の上手いひとであるのにわざと調子ッパズレに歌い、かといってそれが本当に下手に聞こえるかというとそうでもなく、そこがこの舞咲りんの腕の見せどころなのです。
エリックをして「あの歌を毎日聴かなければならないのか」と地団駄を踏ませますが、その下手さ加減は観客を「笑わせるための下手さ」であり、決して「歌えない人の下手さ」ではありません。そして、だからこそ観客も安心して「カルロッタのヘタクソな歌」を聴いていられるわけです。
舞咲りんは素顔を見るかぎり舞台化粧映えのするあっさりした顔立ちで、真紅の口紅でカルロッタの悪女顔をつくっています。ところが、その「悪女顔」が表情の豊かさと派手なジェスチャーのせいで、返って憎めないドタバタ劇の主人公のように仕上がっているのです。
クリスティーヌを衣装係にしたり妬んで薬を盛ったりと悪事三昧ですが、それでも憎めないカルロッタになっているのは、舞咲りんの繊細な芝居ごころと隠しても隠しきれない歌の上手さのせいなのでしょう。雪組の貴重な人材です。
朝美絢の情けない「小物」アラン・ショレ
朝美絢というと、どうも「FNS歌謡音楽祭で話題になった美しい人」という言葉が頭に浮かびます。僕がまだあまりよく知らない「路線男役たち」のひとりで、雪組に組み替えになってから頭角をあらわし始めた男役という印象です。僕が最後に見たのは、まだ組み替えになったばかりのころの「ひかりふる路」のサン・ジュストでした。
その彼女がまるで変身前の狼男のような髪とヒゲ姿で現れたので、少々ビックリしました。
盛り上げたその髪とヒゲと時々猫背になる姿勢のせいで、どちらかというとそれほど背が高くない彼女を貧相に見せていて、なんとも役柄にぴったりの風情となっています。声も高めにしているようで、いかにも女房の尻に敷かれ、目先の利益に戦々恐々とする小物の男性が舞台に登場していました。
路線男役にこんな役を、それも1本もので演らせてしまっていいのか、という疑問もわきましたが、朝美絢がこういうオジサン役に徹底的になりきれるのも芝居の幅を広げる意味ではいい機会だったのかもしれません。
しかし、同じオジサン役でも彩風咲奈の「悲しい目をした美丈夫キャリエール」とはずいぶん違いますね。
このアラン・ショレは彩凪翔との役替りで、朝美絢はシャンドン伯爵も演じたということですが、DVDにはその役替り編は入っていなかったのが残念です。
彩凪翔のむくわれない美しいシャンドン伯爵
「ファントム」のフィリップ・ド・シャンドン伯爵も「オペラ座の怪人」のラウル・シャニュイ子爵(こちらのほうが爵位は低いですが)、どちらもオペラ座のパトロンです。シャンドン伯爵はパリの街でクリスティーヌの美しい歌声を聴いてオペラ座に推薦しますが、ラウルは元々クリスティーヌの幼なじみで偶然観劇に来て彼女と再会し、恋に落ちます。
「ファントム」のシャンドン伯爵はクリスティーヌに好意を寄せていますが、それが本当の恋なのか、それともパトロンとしての誠意なのか。誰にでも優しく、育ちのよい貴公子として皆から愛されているひとでもあります。
ただし、物語の最後でも想像できるとおり、クリスティーヌの気持ちは彼のほうに向いているわけではありません。誇り高い貴族の男として女性を守る命がけの戦いをしたのに、感謝されることもなく、エリックの死後ぽつんと独り取り残されます。なんとまあ。
彩凪翔はすらりと背が高く美しく、まさに貴族の男性にふさわしい立ち姿をしています。DVDで見ると、アップが多いのでその表情さえもはっきり見えますが、こうした貴公子役が与えられるのも納得の芝居でした。
さて、問題の歌ですが。
これは率直に言って、せめて音程をはずさずに歌いきってほしかったです。特に、ビストロの場面では中心になって歌を披露しなければなりませんので、かなり苦戦していたように見受けられました。さらなる精進を期待します。
役替りでは彩凪翔がアラン・ショレとなるわけですが、どんな小物感を出してくれたのか非常に興味があります。映像をネットで探してみましたが、見つかりませんでしたので残念です。
さて、これで僕の4回にまたがった「ファントム」の感想は終わりです。
まだ書きたりないこともありますが、DVDでは舞台全体を見ての印象を書くことができないので、ひとまずこれで。何度も再演されていますから、これからもまたどこかの組のトップコンビで「ファントム」を観ることもあるでしょう。それが、この望海風斗と真彩希帆の舞台をさらに超えるものであるかどうか、楽しみに待つことにします。
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コメント
いつも楽しく拝見させて頂いています。
ファントムは大好きな作品ですが、初演宙組に大変感動したものの、
花組の再演、再々演で非常にがっかりしました。
雪組のだいきほコンビが発表された時、お披露目がファントムで
なかったので、じゃあ何故この2人を組ませるの?と思ったぐらいです。
ですので、ファントム上演が発表された時は飛び上がりたいぐらい
喜んだのですが、チケットは入手できず、大劇場の当日券で観劇しました。
始まってすぐと、中間辺り、終わりの方と観ましたので、役替わりも観ました。
始まってすぐの時に、高い期待値を軽く超えた完成度の高いファントムだったので、
できれば毎週通いたいぐらいでした。
高い完成度を突き詰める為の様々な模索をしているような公演でもありました。
だいきほコンビの喉が持つのかな、と心配でしたが、大丈夫でしたね。
ただ、体力的にぎりぎりだったのか、中間辺りの時は、1幕ラストのお姫様抱っこと
デュエットダンスのリフトはなかったです。
で、東京もチケット入手ができなかったので、千秋楽ライブビューイングに行き、
スカステ放映を待てずにブルーレイを買いました。
ブルーレイなら、役替わりダイジェストが入っていますよ。
長々のコメント、失礼しました。
もひさん、こんにちは。
出張先でパソコンの問題があり今まで何も日本語で書けなくなっていました。お返事が遅れてすみません。
大劇場は当日券が手に入るのですね。
僕はやっぱりこの公演がナマで観られなかったのがとても残念です。やはり劇場で観ると雰囲気が違いますから。
お忙しいのに、ご返信頂き、ありがとうございます。
このファントムは、大劇場へ6時に着いて、当日券に並びました。
最初は2階A席補助席が取れたのですが、あとは立ち見です。
2回目は立ち見の1列目で柵にもたれる事ができたのですが、
3回目は立ち見の2列目でしたので、ちょっとしんどかったです(笑)
ここまでの事はなかなかないんです、本当にチケ難でした。
でも、生はいいです。
今回は、照明などでプロジェクションマッピングを多用して、
主人公エリックの哀しみを浮き立たせるような演出でしたが、
映像ではちょっと分かりにくいですね。
立ち見は僕のようなのっぽジジイには少々辛いですね…何しろ180cmありますので立ち見の2列めのひとに迷惑になりそうです。
そうなんです、照明などの舞台の演出が分かりづらいのが映像の難点です。表情はアップが多くて見やすいのですが。