続・ニューヨークの宝塚OG公演「CHICAGO」ー現地メディアの反応は?

退団後のジェンヌたち
画像引用元:https://natalie.mu/stage/news/195725
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日曜日ということで、少しネットでニュースを漁ってみました。
今日24日までのニューヨーク公演ですが、日本語では「大盛況の初日」ニュースの後、現地メディアの劇評についてはどこも取り上げていないようです。ニューヨークのようなミュージカルの本場でその目の超えた批評家たちに書かれるわけですから、本来ならこれが1番気になるところなのですが実際には何もありません。初日の様子と「世界に羽ばたく宝塚OG」という賛辞ばかりです。

先記事についたフラワーさんのコメントでは、どうも初日以降は当日券が半額になってしまったようですし、この現地と日本のメディアの温度差には僕もとまどうばかりです。そりゃ、辛辣な批評は見るのもイヤなのはわかりますが、それでは何も向上しません。ミュージカルの本場ではそうした批評をくぐり抜けてきた者たちだけが脚光を浴びるのだと思います。つまり「次」を目標にするわけですね。
そして、それがなければいくつかの記事で書かれたように「物珍しさ」だけで終わってしまいます。
僕が参照したのは先のニューヨーク・タイムズの他には以下のような劇評記事です。全て署名つきですので、大新聞のか陰に隠れて匿名で書かれたものではありません。まだありますが、列挙にしても同じような批評の繰り返しだと思います。
ザ・ガーディアン(The Guardian)https://www.theguardian.com/stage/2016/jul/21/takarazuka-chicago-review-all-female-japanese-cast-new-york
ノース・ジャージー・ドット・コム(North Jersey.com)記事はすでに削除されています。
タイムアウト・ニューヨーク(Time-Out New York)http://www.timeout.com/newyork/theater/takarazuka-chicago
ヴァルチャー(Vulture: Devouring Culture)http://www.vulture.com/2016/07/theater-review-all-female-all-japanese-chicago.html
シアター・マニア(Theater Mania)http://www.theatermania.com/broadway/reviews/takarazuka-in-chicago_77874.html

他にもニューヨーク・タイムズ紙の記事をリブログしたものが多数。つまり、「メディアに取り上げられた」という点では大成功だったと言ってもいいと思います。たとえそれが

「物珍しさ」が先にたったイベントであったとしても。
どの批評を見ても、どちらかというと「宝塚」とその「女性だけの劇団」という解説が先に立っているようですが、NY公演の彼女らが「宝塚OG」であると書かれたものは数少なく、舞台に立った30余人が全て宝塚歌劇団に所属しているような印象を受けます。

メインであるCHICAGOの評は好意的ではありますが、先記事にも言及したとおり、残念ながら「日本語だった」ということでどうも受け難い面があったようです。字幕付きでは舞台に集中できませんが、ほとんどの批評家たちはこのミュージカルのストーリーとセリフをすでに知っていたのでまあ問題はなかったのですが、それでも違和感は否めなかったようです。。

CHICAGOの演出自体はオフ・ブロードウェイ版の踏襲(ファクシミリ、つまり完全なコピーという意味の言葉がここでは使われています)で、目新しいものは何もないと切り捨てている批評が大半です。日本からの逆輸入されたオフ・ブロードウェイのミュージカルがどのように変わっているのか期待されていたのだと思います。

しかしそれだけに、何十回となくシカゴ観劇を繰り返してきた専門家たちの目は、宝塚版のシカゴでは演出というよりその表現力と実力に集中されたようです。
ダンスはどうしてもブロードウェイのトップレベルとは比較にならないとしている批評家もいます。

群舞としてはきれいにまとまっていますが、シカゴで期待されるそのエネルギーの発露と嫌らしいまでの肉体の表現力が試されたのだと思います。つまり、どちらも「清く正しく美しく」あろうとする宝塚から完全に逸脱した生身の「肉」の熱気が求められたのです。確かに、シカゴのフォッシースタイルには舞台から直接ダンサーたちの汗が匂ってくるような迫力があります。
本場ではまだまだその域に達していなかったというのが、ニューヨーカーたちの見解です。

 

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また、どの批評もフィナーレの「宝塚レビュー」に触れています。
全くメインのシカゴには関係のない付け足しというひともいれば、これだけはとても楽しかったというひともいます。いずれにしろ、大羽根のインパクトは宝塚を観たことがない観客をビックリさせたようです。

クリップを見るとわかりますが、「退団してからほとんどダンスを見せていない」OGたちも男役として踊っているのがわかります。峰さを理と姿月あさとという、歌は上手だけれどたぶんダンスからは長年遠ざかっていたひとたちが真ん中で踊っていますが、確かにキレがよいとは言いがたく、ここはいくつかの批評で辛口でした。

また、この男役群舞は大階段をつかった羽山紀代美の代表作ですが、もちろんここでは大階段があるはずもなく、皆同じ舞台上で踊っています。男役群舞は全員黒燕尾で大階段を使い、しかも一糸乱れぬ統率の美が魅力ですが、ここではその魅力が半減しているのが残念でした。黒燕尾、大階段、一糸乱れぬ統率、という3つが揃ってこその素晴らしさなのですね…。(えーと、後方で踊っているOGたちはまだしも、前列の男役たちは全員過去に組トップとして君臨していたひとたちです。つまり群舞であっても「ひとりだけ」真ん中でちょっと大ぶりだったり遅れたりして華やかに踊ってもいいひとたちでした。そんなトップたちがこれだけ並んで踊っていたら、きっちり揃うわけがないよなあ、とちょっと笑ってしまいました。失礼。)

「全く宝塚が知られていないミュージカルの本場」での公演について、辛口批評ではありましたが、「外の世界で」どのような感想を持たれるかを知って興味深い経験をしました。宝塚歌劇は熱いファンたちも含めて非常に特殊な世界だと思いますが、世界に進出するには何が求められているのか知ることも大切ではないでしょうか。

ミュージカル本場の世界に乗り込むには、たぶん「宝塚」の特色をもっと色濃く見せる舞台を持っていくほうが良いのかもしれません。今回のこの公演で宝塚が全員女性であるということを初めて知ったひとも多いはずです。先のNY公演は1992年でしたから、また華やかな舞台をもってNYに乗り込んでほしいと切に願っています。

<追記>
NY公演を直接観劇なさったのはフラワーさんだけではないようです。blueさんという方が詳しくコメントしてくださっているので、先記事のコメント欄もご参照ください。おふたりとも興味深いコメントをありがとうございます。

 

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コメント

  1. 匿名 より:

    オーストラリア在住の方から、ニューヨークの情報を知りました。収集能力に脱帽です。

  2. フラワー より:

    リンカーンセンターのFBにアップされたタカラヅカ特集を見たのですが、どうもリンカーンフェスティバルに招待する団体を選定するディレクターが2014年に宝塚公演とOGシカゴ公演を観劇し、ぜひ招待したいと思って実現した事の様です。そして招待する条件の1つが宝塚アンコールを入れる事だったそうです。 シカゴは通常の宝塚公演に比べると少人数キャスト、セットも簡素でよいので予算的にも見合ったにだと思われます。

  3. zukamen より:

    フラワーさん、こんにちは。
    ほう。そういう裏話があったのですね。
    招待する条件に宝塚アンコールを入れたというのは大当たりだったようです。
    これで宝塚のことを知ったひとたちも多いと思うので、引き続きNY公園の構想を練ってほしいです。
    僕は、このOG公演を発端にこれからはもう少し宝塚OGへの関心が高くなったらいいなと思います。懐かしの宝塚メロディだけではなく、こうした新しい試みを熟練OGたちの団結で見せてくれたら…ワクワクします。

  4. ムコ より:

    今回の海外公演は、特に日本人客に頼らずにやったのですね?知らなかったです!
    すごいなー。こういうお話が聞けて楽しいです。zukamenさま、はじめ、コメンテーターの皆さま、ありがとうございます!!
    NYで宝塚の和物ショーなんてどうなんでしょうね?ちょっときついのかなぁ。。
    和物が宝塚の伝統と言うのも、海外公演に今後持っていくときにきっと和物はキーポイントになるだろうということもあって、頑張って和物も継承すべきもの、という認識のようですが。
    和物でなくても、宝塚のレビューを入れたのは先方からの希望だったとのこと、わかります。。やっぱりミュージカルを見た後でこのレビューがついてくるのが宝塚ですものね。これなら言葉はほとんど必要ないし、宝塚の衣裳の力、演出力がめいっぱい出せると思います。
    みっちゃんのノバボサノバ(love & dreamにあった)をニューヨーカーの方に見て頂いたらどうだったんだろう、、きっと私たちと同様感動されたんじゃないかな、、
    と妄想します。
    こういう話を耳にしますと、なおさら北翔さんの卒業後も楽しみです。

  5. zukamen より:

    ムコさん、こんばんは。
    今回はあまり日本で紹介されていなかった現地での批評をダイジェストで翻訳してみましたが、思いがけず実際に観劇なさった方々からもコメントをいただいて、僕も大変興味深かったです。
    レビューもそうですが、和物はやはり美しく海外でも評判を呼ぶでしょうから、もう少し力を入れて欲しいですね。
    退団後の北翔海莉もきっと何かを始めるでしょうから、寂しくもありワクワクでもあり…複雑な心境です。