実は「阿弖流為」はもう随分前に入手していたのですが、どうも途中で邪魔が入ったり、いきなり忙しくなったり、スクリーン観劇が中断したままになっていました。
が、今回「阿弖流為」で二番手だった瀬央ゆりあがまたバウホール主演に決まり、礼真琴も着々と全国ツアーで足固めをしていることもあり、週末を利用してやっと全編通して観ることができました。
長編を2時間半の感動の舞台に
高橋克彦の歴史小説「火怨 北の燿星アテルイ」が原作ですが、この1000ページ以上の長編を一体どう2時間半の舞台にするのか大変興味がありました。前回観た「天は赤い河のほとり」も漫画とは言え28巻も出ている長編で、駆け足展開のストーリーをたどるのに必死だったからです。
今回の作品では、焦点を阿弖流為に絞っていたのが成功したゆえんだと思います。また、坂上田村麻呂を原作から舞台の時間内に沿うように要所に配して、物語の流れを妨げないつくりになっていました。
阿弖流為をとりまく若手の蝦夷たちの活躍も素晴らしいです。他の作品では「何とか皆に役をつけてセリフを言わせよう」という意図が明らかで少々退屈なときもありますが、この作品の場合、血気盛んな蝦夷たちの同志愛と涙の話が織り込まれていて飽きさせません。
また、原作は基本的に「男の物語」です。佳奈に関してはほんの少ししか書かれていませんが、宝塚ではそこをもう少し詳しく見せることで、阿弖流為と佳奈の愛を美しく描いています。
これは脚本と演出の勝利ですね。
大型スクリーンを使った背景装置がおもしろい
日本青年館ホールは大階段も銀橋もない比較的小さめの舞台で、今回の作品もシンプルであまり小道具を使わない作りになっています。が、背景の大型スクリーンがそれを補って余りあるほどの迫力と臨場感を出していておもしろかったです。
また、場所や戦術が簡単にわかるように場面ごとにスクリーンに映し出したり、舞台に登場した人物のなじみのない名前を大きく表示したことにより、観客を視覚的に助けていて効果的だったと思います。
ただし、それをDVDで観るとなると少々見え方が違います。
舞台の生徒さんたちがアップになると背景のざらつきが目立ち、照明の関係で遠近感がなくなってしまうのです。カメラが引いている場合は自然なのですが。
振付と殺陣の迫力
振付に峰さを理の名前が入っていて、かつての星組スターがいまだ宝塚と密接な関係にあることに改めて気づきました。都の貴人たちとその華麗ですべらかな踊りに、日本舞踊の名取でもある峰さを理の確かな力量が現れています。
ただし、今回の「阿弖流為」では僕は蝦夷たちの踊りに惹きつけられました。腰の位置が低く、足の開き方が大きいのです。舞台を踏みしめるようなその動きに、土に根付いた蝦夷たちの力強さが現れていました。おもしろいことに、フィナーレの登場の仕方でも貴人と蝦夷たちの足の開きが違うのです。
殺陣も多く、蝦夷役の生徒さんたちにはさぞ大変だったろうと思いますが、皆荒々しい剣さばきを見せていて目が離せませんでした。計算され尽くした動きに気合と迫力が加わり、女性たちの殺陣とは思えない舞台となっています。
原作では残酷なシーンも沢山あり、とても愛と夢の宝塚では表現できないだろうと思われるものもあります。それを振り下ろされた剣と暗転という手法を使い、最後の処刑もさらりと布に包まれたふたつの首級で登場させ、さすが宝塚だと僕は思いました。
スクリーン観劇であるにもかかわらず、実は僕は感動して何度も目を拭いました。それについては、次回のキャストの感想で述べます。
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