柚希礼音というトップスターの芝居を見たのは初めてです。
低音がとても心地よく伸びやかに響きます。その前にちょっと新人公演のころの歌も垣間見ましたが、そのころはまだまだ。努力と年月をかけて磨かれて得た声なのですね。退団してからのこれからは、高音もマスターして歌の幅を広げていってほしい逸材です。
ただしストーリーとしては…ブッツケ本番で鑑賞したので、人間関係がわかるまでずいぶん時間を要しました。黒豹というのはこの主人公のご先祖さんであり、そのご先祖さんのニックネームをなぜ彼が受け継いだかというところが描ききれていない。だって参謀長でしょう…職種としては「黒豹」というワイルドさが欠けるのでは。
それに二人の愛が再燃するのは結構なのですが、最初に恋に落ちた部分は「語られる」だけなので、どうも鑑賞しているほうとしては感情移入しにくいという欠点があります。ここは回想場面などでまずウットリさせてほしかったですね。
いや、そうは言ってもこのコンビの相性は素晴らしいです。夢咲ねねの愛らしさに心を打たれ、これでもかと見せつけるキスシーンの美しさに口がぽかーんと開き、短い時間ではありますがデュエットには大満足でした。
ホントにはしていないとわかってはいても、ホントにしているとしか見えないキスシーン。スゴイなあ。
二番手らしい紅ゆずるの敵役は、彼女の若さが表に出てしまい、成功した実業家としての貫禄がイマひとつ感じられませんでした。唇を歪めた笑いはセクシーですし美しい立ち姿なのですが。たかがリクルートを断られたせいで、その軍人の恋人を奪おうとし、それも失敗したら今度はピストルが出るというのはどう考えても短絡的で、一代で財を成したひとの行動とも思えません。それが狂おしいほどの大恋愛成就に繋がるならまだしも、最後には主人公のアントニオさんはモロッコの鎮圧に出かけてしまいます。愛を再確認した恋人を残して。
柚希礼音の退団を背景に書かれたものだからこういう結末になったのかどうかわかりませんが、どうもストーリーとしての迫力に欠けて肩透かしをくわされた気分です。
大海賊ソルのほうを主人公に波乱万丈の芝居にしてくれたらもっと面白かったのかもしれません。最初柚希礼音が海賊の格好をして出てきたときにはワクワクしたのですが、400年たったらとたんにつまらなくなりました。残念です。
初めて見た柚希礼音と夢咲ねねの舞台がふたりの退団公演というのもため息モノですが、これからもう少し遡ってふたりの以前の舞台を探してみようと思います。
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