2007年宙組「THE SECOND LIFE」の北翔海莉にスターのオーラを感じながら

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北翔海莉の退団公演「桜華に舞え」が東京で上演されています。オーストラリアからはほんのちょっとの映像しか見ることができないので、彼女の以前の作品を観ることにしました。

宙組時代のバウホール公演「THE SECOND LIFE」です。

主題歌としての彼女のピアノの弾き語りがあまりにも有名で、一度通して観てみたいと思っていた2007年の作品です。

舞台が始まって「X組の北翔海莉です」と言うアナウンスですでに拍手が起こっています。彼女が星組トップスターになってからの習慣かなと思っていたので、少々ビックリしました。このころもうすでに北翔海莉の熱心なファンが声援を送っていたのですね。

物語は死んでしまった天才ピアニスト(マーク)が、恋人を諦めきれずに天国を逃げ出してこれまた殺されたマフィア(ジェイク)の身体をいただいてしまうという、どこかで見たような話です。古いところではウォーレン・ベイティの「天国からきたチャンピオン」またはパトリック・スウェイジとデミ・ムーアの「ゴースト」など。たぶんアイデアはこれらの映画から得たのでしょうが、コメディーの中に苦しい愛や美しい歌などが散りばめられていてよくまとまっていたと思います。死ぬのは全員ピストルで、というのもまあマフィア抗争が含まれているから仕方のないことでしょう。
ラスト以外は。

もう古い作品なのでネタバレさせてしまいますが、ラストだけがとってつけたようで今まで客席で涙を拭っていたひとたちが「へ?」と顔を上げてしまうのが目に見えそうでした。撃たれて死んだ恋人が棺の中から蘇ってしまうのです。それもまだ遺体が残っているのをいいことに、マークとは違い自分の元の身体に戻るという安易な設定。そして、悲しみの葬式から一転してめでたしめでたし。

いや、ビックリしました。誰もが幽霊でもなく一旦死んでも自分の意志で人間の身体に戻って来られるというのも「へ?」ですが、神の言葉の「もう1度死んだら今度は天国ではなく地獄に行く」というのも宗教が身近にあるひとにとっては実は非常に恐ろしい宣告なのです。これも軽く「まあいいか」で済ませているのには少々たじろぎました。

これだったら「天国から来たチャンピオン」のように、恋人の女性を死なせずにもう一度違う身体で生き返ったマークが、前世の記憶を失ったためにそうとは知らずに彼女とまた恋に落ちる、という設定のほうがはるかに説得力があります。

…とは言いながらも、バウホールの小品でしかも実力者とスターの煌めきのある生徒たちが揃っていて、物語としての完結部分を抜きにすればかなり楽しめると思います。

北翔海莉はやはり若々しく、今のような「貫禄」というよりは「すぐそこにあるトップへの道」を予測させるようなオーラを醸し出していて、その後の紆余曲折を知るとため息が出るくらいでした。歌の実力が備わっているからこそ、この作品の珠玉のような歌が生きているのだと思います。弾き語りはウットリとするくらい美しいですし、その甘い歌詞と相まって宝塚歌劇史に残る名曲でしょう。

また、マークがジェイクの身体に入るとき彼女の表情と仕草が一瞬でガラリとマークに変化します。芝居の上手さを確認できる場面です。

アドリブやコミカルな場面についても、その後の北翔海莉を彷彿とさせるような絶妙な間のとり方があり、感心しました。でも、みっちゃんはやっぱり笑い上戸だなあ。アドリブで笑いをこらえ切れないのはいつも彼女です。

ただし…なんだか化粧が地の美しさを壊しているような気がするのですが。いや特に眉毛が海苔のようで、化粧に縁のない僕のような男でも感じましたので、なぜ周りのひとが指摘してあげなかったのかと不思議でした。

相手役の和音美桜の歌がまた素晴らしいです。宝塚娘役スターにふさわしい風貌と歌声ですが、トップにはならずにすでに退団されたということで残念です。でも外部の舞台で色々と活躍されているようで、やはり実力と美貌はモノを言うものだなと思いました。北翔海莉との立ち姿と歌の相性が良いのも、この作品の華となっています。

美貌で際立つ早霧せいなも良い役を与えられていました。いや、このひとは本当に美しいし、ラストのダンスでは実に冴えています。歌う場面も多かったのですが、この部分だけは今でもあまり成長していないような気がしました。今のほうが(僕は「ローマの休日」しか観ていませんが)多少声だけは出ていますが、それでも今度は強弱が激しすぎて耳障りがよくありません。

七海ひろきも出ていたのですね。マーク役で、コミカルな部分と爽やかなマークの性格を好演していました。しかし、歌が(以下省略)。

全体的に娘役は歌が上手いひとが多く、男役でため息をついてしまうことの多い舞台でした。

しかし、北翔海莉を始め、早霧せいなも七海ひろきも宙組を離れているのですね。先のふたりはすでにトップスターになっていますが、七海ひろきは今年初めてバウホール公演で主役を与えられたという話を聞き、これからの活躍に期待したいと思いました。

 

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コメント

  1. ヒメ より:

    ヅカメンさん、こんにちは。
    THE SECOND LIFEごらんになったんですね。DVDが出ていないのでなかなか難しかったのではないかと思います。私もスカイステージに加入して観ました。この作品はマジメなのかコメディなのかよくわからない、それでもとても楽しい作品でした。
    北翔さんは、千秋楽でピアノ弾き語りのところで頭がまっしろになってしまって、最初からやり直したとおっしゃってました。映像では編集されてわからなくなっていましたけど、まっしろになって焦るみっちゃんも見てみたかった気がします。本人、家へ帰ってから号泣したそうですので、かわいそうですけど・・。
    なお、後半ほとんど出演していない七海ひろきさんは、大きくなった犬の中に入っていたんですよ。企業秘密って、いったいなにを食べたんでしょうね?

  2. ピノ・グリ より:

    『LOVE&DREAM』の中でタイトルを耳にして、たまたま録画して見ました。
    和音さんを初めて見ました。
    こんな上手い人がいたんだ!と驚く、宝塚初心者。
    ヴァランシエンヌ・琴音さんにご姉妹がおられるのは聞いていたのですが。
    ジェイクの姿だけどマークに見える!と、何の考えもなしに見てました。
    すっかり演技力にやられていたんですね。
    ヒメ様の書き込みで、何かあったらしい、ピアノの場面の事情がわかりました。
    リカバリーを感じさせない、素晴らしい演奏でした。
    美風さんのハッキリしたお芝居とか、早霧さんのケリー「良かったねぇ」とか、
    バウホールの演目は、周りの人が光って見える気がします。
    日本の関西は、このところ急に肌寒くなってます。
    今期第1回目のお鍋をしようかと思ってます。

  3. zukamen より:

    ヒメさん、こんばんは。
    「THE SECOND LIFE」は、ここで知り合った方に教えてもらって鑑賞しました。
    あ、僕もどこかでその「頭がまっしろになってしまって、最初からやり直した」という話を読みましたが、映像では何事もなかったのでこれじゃないのかなと思っていました。編集されていたんですね。
    それから、七海ひろきがあの「犬」の中? それは知りませんでした! うわー、「企業秘密」では笑ってしまいましたが、まさか七海ひろきだったとは。

  4. zukamen より:

    ピノ・グリさん、こんばんは。
    和音美桜の歌も素晴らしかったです。
    でも今も舞台で活躍しているそうで、一度見てみたい聞いてみたい歌の実力ですね。
    千秋楽のピアノ演奏に失敗して家に帰って大泣きした北翔海莉は、やはりあの次郎吉のときの泣きべそ顔だったのでしょうか…かわいそうです。
    バウホールは僕はまだ行ったことがないのですが、小さいだけに隅々まで見渡せるのがいい、とどこかで書かれていました。
    寒くなった関西、ご自愛を。

  5. yurara より:

    ヅカメンさん、こんにちは。
    こちらは一段と寒くなってきました。
    「THE SECOND LIFE」、ご覧になったんですね。
    私も、映像で観ましたがラストは「え?どういうこと?」とあっけにとられてしまいました。
    ラストまでは、良かったのですが・・・。
    和音さんは、歌の上手な素敵な娘役さんでしたが、残念ながら退団されてしまいました。
    宙組のみなさんもまだ若くて、はつらつしていたなあと思います。
    自分がしかけたアドリブにアドリブで返されて笑ってしまう北翔さんに笑ってしまいましたが、汝鳥さんは笑わなくて、流石だなと。
    北翔さんは、「恋天狗」というバウの小作品でも二役(弥太と天狗が化けた弥太)を演じています。
    「恋天狗」は、月組時代のワークショップで1時間ほどの小作品でしたが、この作品もまた、声、仕草でしっかりと演じ分けていて
    すごかったです。
    機会がありましたら、ぜひご覧になってみてください。

  6. ムコ より:

    これは、、わたしの思い出の作品です。
    この少し前、宙にきたばかりの北翔さんに目を奪われ
    いつも楽しみに宙をなんとかして見に行っていた頃、
    歌姫たっちん(和音美桜)とのバウ主演が決まったと話題でした。
    おそらくトップになって2人が組むことはないだろうから
    これが最初で最後の2人の主演作品になるだろうと言われていまして
    こんな耳が幸せな公演は金輪際ないだろうと言われていました。
    どうしてもみたい!!!と思いまして
    生まれて初めてバウのチケットを取りに行きましたよ。
    でもとってもチケット難で。。一般ではとれず。
    どこをどうやったのかあまり覚えていないのですが、
    確か当時のヅカ友達に
    手を尽くしてもらって一枚やっと手に入れました。
    それなのに。。私が子供に風邪をもらってしまい、子連れで
    帰省して宝塚観劇、というフルコースができなくなり。。
    泣く泣く実家の母にチケットを渡して代わりに見てもらったのでした。
    わたしの手元に残ったのはセカンドライフのパンフレットだけ。
    当時のみっちゃんは、zukamenさんがおっしゃるほどメイクは
    悪くなかったですよ。
    後から映像を見ていても月組後期から宙組前半は
    もっともメイクも落ち着いていて、顔も小さくて
    宝塚のスターとしては完璧に美しい時期だったと思います。
    (あか抜けないという表現をする人はいましたが)
    すばらしく手足の長いすらっとした二枚目スターで、
    たっちんのお芝居も歌も声の相性も素晴らしく
    きっと生の舞台を見ていたらもっともっと
    熱中していただろうなぁと思います。
    当時の宙組は、歌の上手な娘役さんが多くて、
    コーラスも厚みがあって素晴らしかったんですよ。
    トップさんが本当に酷かったですが。。。
    たっちんはトップさん休演時に代役をしたり、かなり
    いい線まで行っていましたが、若くして退団され
    その後外部で活躍されています。
    帝劇でヒロインの座も射止めましたし
    あの当時の宝塚では早めに退団してよかった、
    ご本人の選択としては成功したスターだろうと思いますが。。
    こんな美声で歌がうまく、お芝居も上手で
    相手に合わせるのが上手で器用で、可愛い娘役さん。
    滅多に出てくるものではないです。
    今の理事長だったら絶対娘1にしたでしょうねぇ。。
    宝塚の財産として長くトップ娘をやってほしかったなぁと今でも思います。エトワールは毎回本当に素晴らしかったです。
    こんな才能が集められる宝塚ってすごいなと感心したものです。
    そしてみっちゃん。スーツ姿がとても麗しく
    かっこよかったのですが。。
    このセカンドライフの後ぐらいから、
    二枚目の役がなくなっていったのです。
    このあと長い冬が始まりました。
    二枚目の役が来なくなってから、、
    きっとご本人はより一層芸に精進されたのだと思います。
    またついてくるファンも若干求めるものが変わりますよね。
    風貌も二枚目スターから少しずつそれていくようになり、
    徐々にビジュアルで叩かれるようになったのだと思います。
    (少なくともわたしが興味を持ったこのセカンドライフの頃は
    ビジュアル叩きはなかったです。私服がオサレ、漬物ジェンヌ
    は当時から言われてましたが、舞台に立てばそんなことは
    微塵も感じませんでしたから)
    こういう時系列の話は、こちらでもよくコメントされているにゃん魚さんの
    ブログ記事が素晴らしくわかりやすいですよ。
    考えてしまうと、今でも口惜しく、胸が痛くなるような話ですが
    セカンドライフはそんな意味でも、キーポイントの主演作品だと思います。

  7. zukamen より:

    yuraraさん、こんばんは。
    お返事が遅くなってすみません。
    こちらはだんだん暖かくなってきて、とてもいい季節になりました。
    オーストラリアは春真っ只中です。
    ほう「恋天狗」。そういう舞台もあったのですね。今度探してみます。
    ありがとうございます。
    北翔海莉はとても若いころから光っていたんですねえ。

  8. zukamen より:

    ムコさん、こちらでもこんばんは。
    そうだったのですか。。。なんだか悲しい思い出の「THE SECOND LIFE」ですね。
    観劇できなくて残念でしたね。
    いやいや、北翔海莉はステキだったと思いますよ。Second Lifeでも。
    ただしちょっと眉毛がきつすぎるような気がしました。描きすぎのような。映像だからでしょうか。
    しかし、ムコさんのおっしゃる「北翔海莉の冬」がこの後から始まったというのは感慨深いものがあります。
    考えるに、僕も少々悲しくなりました。
    ところで「漬物ジェンヌ」って何ですか?
    それからにゃん魚さんのところに時系列情報が? ちょっと覗いてきます。

  9. zukamen より:

    さえぽんさん、こんにちは。
    結局イル・モンドはダメなのですね。。。
    僕もメールを出しましたが、お返事はまだ来ていません。手紙じゃないと返信してくれないのかな。
    にゃん魚さんのブログはもうリサーチがハンパじゃなくてスゴイです。
    僕はここを見て、なんで北翔海莉には「長い冬」があったのか、その理由を知りたいと思いました。なぜ専科に送ってしまったのか、と。前理事長には何か理由があったのでしょうか。
    ほう。「ロマンス!」ではカツラも色々と変えているのですね。
    情報をありがとうございます。

  10. ムコ より:

    zukamenさん、前理事長の話ですが、おそらく
    親子の確執だと思いますよ。
    最近あちこちでも言われていますが、それしかないと思います。
    お父様の公平氏が校長の時に、最終面接で一人だけ合格をつけて
    音楽学校に入ったみっちゃん。
    公平氏の見込通り(超えて?)才能を如何なく発揮し
    神童と呼ばれるほどのスター街道を歩んできたものの
    公平氏、宝塚以外の部分では阪急東宝グループの
    負債を大きくしたこともあり、最後は責任を負わされるような
    形で退陣されたようです。
    その息子の公一氏はお父ちゃんの作った負債をなんとかしようと
    座席のチケット代金を上げたり、フェアリー系アイドル系の
    スターを重用していってメディア戦略を重ねたりしていきます。
    その時お父様が目にかけた天才スターを疎ましく思ったんじゃないでしょうか。
    お父様のカラーを払拭したいと必死の公一氏にとっては。
    お父様や小川理事長と違って、公一氏は風貌からしても
    どうみても大企業の上層部、に見えない人でしたし
    (見た目は窓際サラリーマンにしか見えない。。何度も劇場で
    みかけましたが。笑)100周年行事が過ぎてからおりてもらった、
    というにゃん魚さんの見立て通りだと思います。
    わたしはまだ買っていませんが、今月号の「歌劇」誌には
    他の演出家さん(大野さん)が、「大野君、みっちゃんが
    トップになったのは驚いたけど歌劇団も捨てたもんじゃないなと思った(概略)」と書いたりしているそうですし、みっちゃんサヨナラ号ですので
    こちらも見ものです。

  11. zukamen より:

    ムコさん、こんばんは。
    お待ちしておりました(笑)。ムコさんなら、必ずやご意見があろうかと。
    うーん、親子の確執ですか。ありそうな話ですね。
    でもそうだとしたら、その確執の種として公一前理事長に疎まれた北翔海莉が非常に運が悪かっただけとなって、そりゃファンの方たちは腹立たしい思いをされたことでしょう。
    あ、歌劇のほうもみっちゃんサヨナラ号なのですね。これも買わなくては。
    ムコさん、貴重なご意見をありがとうございました。