珠城りょうのお披露目公演である「アーサー王伝説」は、僕が以前観た「1789バスティーユの恋人たち」と同じくフランスから来たミュージカルです。アーサー王の物語は、つい最近こちらで公開になった「Arthur」という映画を観たこともあり、宝塚版のミュージカルも気になっていました。
ケルト音楽をもとにアレンジした音楽は、宝塚の曲と違って新しい感覚です。1789のときもそうでしたが、こういった音楽を特に洋物の多い宝塚の芝居に取り入れてみるのも面白いと思いました。大胆な音階があって、生徒が少々とまどっているような歌声もありましたが、これはフレンチ・ロックの特徴かもしれません。激しく歌い上げるのが苦手だと難しいだろうと思いました。
珠城りょうは1789ではあまり目立った役ではありませんでしたが、その後研9で抜擢されてトップの座についた、天海祐希(研7)の次に若いトップと言われています。恵まれた体躯と化粧映えのする顔立ちで、このお披露目公演で初めて真ん中に立った彼女を見ました。若きアーサー王の話ということで、彼女の状況にぴったりの舞台です。押出しも立派ですし、何よりも初々しいです。舞台では堂々としてはいますが、王であることの戸惑いと不安がまさにトップになった彼女の姿とうまい具合に重なって、心の揺れを見事に表現しています。歌に少々ズレが生じることがありますが、よく通るいい声をしているので、それはこれからの精進次第だと思います。
また、モーガンとアーサーの出生の秘密にからんだ劇中劇では、皆が参加してあやつり人形のフリでその秘密を暴露しますが、大変面白いアイデアで楽しめました。愛希れいかのフリが巧みです。彼女のグィネヴィアは恋にまっしぐらの(ちょいと頭の弱い)可憐な女性で、最後に狂ってしまうところなどもその弱さが現れていて、面白い解釈だと思いました。
実際の「伝説上の」グィネヴィアはランスロットと恋に落ち、円卓の騎士の分裂を招く要因ともなっています。つまり、その後の戦乱の世のきっかけを作ってしまいました。グィネヴィアは火刑になるところをランスロットに救われますが、その後アーサー王のもとに帰りアーサーの死とともに修道院に入ります。ランスロットとは生涯会うことはなく、彼女の死を知ったランスロットは食を立って彼女の後を追ったそうです。
しかし、宝塚公式サイトでも「グィネヴィア」と書いてあるのに、なぜ舞台では「グイネヴィア」と「イ」にアクセントが置かれているのか…変な名前になっちゃっていますね。英語でもオリジナルのフランス語でも「グイ」とは読まないので。
千海華蘭は、せんかいからん?と思ったら「ちなみからん」でした。宝塚の名前は読み方が難しい。名前を調べたときについでに写真も見ました。素顔のなんと童顔なこと。舞台では髭をつけ化粧にも工夫のあとが見られ、年齢不詳の魔術師マーリンを好演していました。
が、どうしてこの公演には専科からの熟年生徒が出ていないのでしょう。マーリンなどは物語の要となる重要な役で、千海華蘭は上手に雰囲気を出していましたが、どうしてもそこここに若さが顔を出してしまいます。
こういう役こそもうすこしお年を召した専科の上手い生徒が枯れた声で登場したら…と思いましたが、現在の宝塚はすでに定年制のため昔より「芝居」専科が非常に少なくなり、またほとんど若返っています。若返ることが悪いわけではありませんが、芝居というものは若くて美しい生徒だけではメリハリがありません。要所要所に重厚な芝居を見せることのできる円熟した役者が必要だと思いますが、今はそこまで手が回らないということでしょうか。
かつては大路三千緒や美吉左久子などの、外部のどんな舞台役者とも比較にならないほど飛び抜けて上手い役者が何人かいました。誰ももうすでに覚えていないでしょうね…僕が「生徒」と書かず「役者」と書いたのにはそれなりのわけがあるのです。
美弥るりかは1789のときと同じように、妖しい雰囲気で魔女でアーサーの異父姉でもあるモーガンを演じています。彼女はその美貌と華奢な体格のために、男性も女性も演じることのできる生徒で重宝されているようです。
アーサー王は いまだに史実か単なる伝説かで争われている人物でして、その物語には派生する説が沢山あります。ただしこのモーガンはアーサー王の異父姉というのが定説です。舞台でもダンスで表現されたようにアーサー王と同衾したために(つまり近親相姦ですね)生まれたのがモルドレットという男で、後にグィネヴィアとランスロットの不倫をアーサー王にチクった人物とされています。しかし、この近親相姦まで宝塚で演ってしまうというところがスゴイなあ…。あまりきちんと触れてはいないようですが。
さて、僕が今回惹かれたのは、輝月ゆうまのメリアグランスです。
グィネヴィアの誘拐に関わったとだけ伝説の物語には書かれていますので、返って自由に動かせる人物としてこのミュージカルでも重要な役を与えられています。かなり背の高い男役で目立ちます。その目立つ体格のうえに歌の巧さが際立っていました。またこちらにも化粧の工夫が見られ、オドロオドロしいコンタクトレンズまであって、第二部ではそれこそ怪演とも言うべき活躍ぶりでした。
確か「宝塚を目指す少女たち」のような番組で、まだ音楽学校の試験を受ける前の輝月ゆうまを見た覚えがあるのですが、僕の勘違いでしょうか…。まだ幼い泣きそうな顔と背の高さが記憶にあります。
いずれにしろ、フランスのミュージカルの新しい波は、音楽にロック感覚のものを取り入れて、フランスの若い観客の心を掴んだようです。探してみたら、オリジナルの2015年版舞台のプロモーションクリップがありました。
こちらは2015年舞台のショーケースから。輝月ゆうまが歌った歌です。迫力がありますね。
こうして見ると宝塚の舞台もオリジナルに負けてはいません。
これからもこうした斬新なミュージカルを各国から取り入れて、新しい風をさらに吹き込んでほしいと思います。
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コメント
お元気でいらしたとわかり、安心しました。
どこで書き込ませていただこうか迷いましたが、
気づいたここで。
大人は、色々ありますものね。
興味や行動力が失せる事、無きにしも非ずかと。
こちらは勝手に、
新しい星組を見たり、雪組のチケットが取れなかったり、
ようやく月組を見たりして過ごしております。
珠城さんのポスターのカッコよさに惹かれて、初月組状態です。
輝月さん、いいですよね。もっと真ん中で見たいです。
お二人とも舞台に映える容姿、大事な要素かと。
千海さんは可愛いです、キャリアの長さにビックリ。
今後の北翔さんをどこから見ればよいのか、迷っています。
過去DVD・BDなら、
月組ミーマイの霧矢さんのスターアングルで、1本空けられます。
大慌てで、箇条書きですみません。
舞台芸術の勉強になるヅカメンさんのプログ、
また読めてうれしいです。
ピノ・グリさん、こんにちは。
公私ともに忙しいときに、またこちらでも色々と舞台観劇をしていまして、映像でしかお目にかかれない宝塚が少々遠くなっていました。まあ、これからもこんなふうに時々「消える」ことがありますが、宝塚自体は老後の楽しみにも直結(笑)しているのでこれからも観劇を続けていきたいと思っています。
アーサー王の伝説は、興味があって昔色々と調べたり読んだりしていたので、今回も面白い解釈だなと思いました。珠城りょうもいいですね。これからどんどんとトップとして真ん中にいることに慣れていくでしょう。
しかし、またもや「長いぞ、ジーサン」という拍手コメントが来ましたが、これって一体どういうひとが書くんでしょうかね…。
長すぎて読みたくないなら閉じればいいわけで。
霧矢大夢のミーマイですか。ふーむ、ちょっと興味がありますので観てみたいですねえ。
これからもどうぞよろしくお願いします。
輝月ゆうまさん、おっしゃってる宝塚受験番組に出ていた方ですよ^^
下級生時代から老け役で抜擢されて若いのに専科さんみたい…と思ってました。アクの強い役も出来、お歌も上手で、この間の本公演でも芝居にショーにご活躍でした。
私は全組気ままに観ているファンですが、アーサー王、お披露目のグランドホテルと観て一気に月組の注目度が上がりました。濃い役を演じられる方や芸達者も多い印象ですし、珠城さんの瑞々しさも素晴らしいです。
最後に。
これからも公演の感想など楽しみにしています。
他の舞台芸術ファンと違い宝塚は熱心に記事を更新してくれる方も多いのですが、長めで視点のはっきりした読み応えのある記事を書いてくれる方は少ないと思うのです。
もちろんすべてはzukamenさんのお気持ち次第だと思いますが、楽しみに読んでるのもいますよ、と言うことで^^
長々と失礼しました。
月組のミーマイ、瀬奈さん主演のBDを是非ご覧ください。
ランベスウォークで大騒ぎのシーンの、
ジョン卿の霧矢さんのスターアングルが、ワインのおともです。
ジョン卿の周りの人たちも、また一献。
舞台を見慣れていない私は、全ての演者さんの演技に感激すらしてしまいました。
ナミさん、こんばんは。
輝月ゆうまは、やはりあの少女でしたか…。
月組の公演では、あのメリーウィドウに出ていましたね。あのときも結構老け役でした。
どちらかと言うと真ん中に立つより、このまま渋い脇役に徹して欲しい人です。歌も芝居も達者でこれからも楽しみです。
お褒めに預かり恐縮です。ありがとうございます。
楽しみに読んでいただいているとのこと、嬉しいです。
ピノ・グリさん、
瀬奈じゅん主演のヴァージョンですね。
霧矢大夢がジョン卿だったのですか。わかりました。探してみます。
ありがとうございました!