「阿弖流為」キャスト感想:壱城あずさ、瀬央ゆりあ、有沙瞳

スポンサーリンク

前回の記事が礼真琴だけで終わってしまったので、もう少しキャストの感想を書きたいと思います。出張が重なり、少々更新が途絶えてしまいました。

 

壱城あずさの芝居に涙する

僕は壱城あずさという生徒さんをあまりよく知りませんでした。
89期ですから中堅と言ってもいいと思いますが、覚えているのは「The Entertainer!」のS.T.A.R.での歌が(礼真琴以外)あまりにも皆ひどくてぽかーんとしてしまったことだけです。

その後退団してからはどんどんと美しい女性に変身し、様々なメディアで活躍していることは彼女のインスタグラムで知りました。

で、「阿弖流為」を観たのがその後でしたので、僕の驚きは本当に大きかったと言えます。

 

悲劇を一身に受け止めて蝦夷のためにひたすら耐える一幕目最初の部分で、彼女がこんなに重厚な演技のできるひとだったのかと目頭にじんと来ました。斬り殺された妻の亡骸を抱いて、血を吐くような詫びを言わなければならない口惜しさ。

紀広純役の輝咲玲央がこれまた堂々とした立ち姿、悪役として余すところなく憎々しげで、それだけに鮮麻呂の悲劇がなおさら観客の心にいきなり訴えたのだと思います。
そこから暗転で礼真琴のアナウンスが入るのですが、これも新鮮でしたね。

出番としては少なく、鮮麻呂は一幕目ですでに引き回されてしまうのですが、この場面がまた涙を誘います。自分だけの罪にしろ、と固く誓わせた阿弖流為たちに哀れな晒し者としての姿を見せねばならない辛さと苦しみ、そして群衆の中で窮地に陥った蝦夷たちから目をそらせるために自ら舌を噛み切ります。その気迫に息を詰めてみていた僕もまた目頭が熱くなりました。

鮮麻呂としての壱城あずさの芝居には、心がありました。鬼と蔑まれても妻を殺されても、そして自分の命にかえても守りたい蝦夷の土地とひとびと。そうした複雑な心情をその細やかな演技で観客に訴えたのです。

歌も「The Entertainer!」のときに比べれば格段に上手く、これは彼女に合わせた歌のキイのせいだったのでしょうか。

その後第二幕になってから、宮廷軍の目立たないところで一兵士を演じていましたが、公演の人数が少ないからなのでしょう。確か「アル・カポネ」でも二役が多かったと記憶していますが、ここでは僕は少々めんくらってしまいました。

 

スポンサーリンク

 

瀬央ゆりあの演じる美しい武人、坂上田村麻呂

坂上田村麻呂は朝廷側といっても、それまで情けないコミカルな雰囲気を持っていた貴族たちとは違い、生粋の武人です。妹は天皇の寵愛を受けている身ですから、それでなくともなにかと貴族たちからは疎まれている印象です。

すっと立ったときのそのすらりとした美しさに僕は見とれてしまいました。生真面目な雰囲気とその美しさで、荒々しい武人というよりは貴族と言ったほうがいい風情です。

当たり役ではありますが、もう少しどっしりとした重厚な面も見せてほしかったです。抑えた演技の場面では内に秘めた感情が渦巻く雰囲気を見事につくりあげていましたが、武人としてはもう少し舞台を覆うくらいの迫力がほしかったです。ちょっと固くなっている場面が少々あり、張り上げた声に艶やかさがないのが気になりました。ほんの少し肩の力を抜いて、誠実なひとを表現してほしかったですが、そこらへんは彼女の若さというところでしょうか。

いずれにせよ、メキメキと頭角をあらわしてきた瀬央ゆりあは、今回また2019年のバウホール主役を射止めています。その後の星組でどんな位置になるのか、気になるところですね。

 

有沙瞳の可憐で一途な眼差しに

有沙瞳の演じる佳奈は、蝦夷の強い女性であるにもかかわらず、阿弖流為を見上げるときのの実に可憐で一途な眼差しに「ああ、これが宝塚の娘役なのだ」と思わせるに十分な雰囲気を漂わせていました。余談ですが、この「見上げる」という彼女の背の低さが今回はかなり二人のデュエットなどで功を奏していました。礼真琴にとってこうした華奢で小さな娘役は、彼女を大きく見せることに繋がりますから。

あのデュエットで、彼女をまっすぐそして軽々とリフトする礼真琴の姿は本当にホレボレとするほど男でした。また、相性のよいデュエットは歌にも現れており、安心して聴ける素晴らしい歌声でした。

最後のデュエットダンスでの幸せそうな笑顔は本当に美しかったです。こういう笑顔を見たのは…妃海風が最後でした。彼女が舞台で北翔海莉を見つめるときの笑顔がこういう美しさを持っていたのです。

母礼の妹である佳奈は悲劇のヒロインです。第一幕の最後のほうの歌でそれが明かされますが、その歌がまた素晴らしいのです。ストーリーを織り込む歌の迫力は舞台いっぱいに広がり、観客の心を揺さぶり続けます。

また、阿弖流為の「俺では不足か?」に、抑えてきた感情の高ぶりに身を任せる佳奈のしっとりとした甘い声と表情には、娘役になくてはならない優しさ、可憐さ、そして一途な愛情がありました。

彼女が星組のトップ娘役ではないことをちょっぴり残念に思っていますが、今年は瀬央ゆりあとともに主演が決まっているバウホール公演があります。楽しみですね。

 

そのほかにも、この公演を最後に娘役に転向してしまった音咲いつきや、雪組に組み替えとなった綾凰華、そして宙組へと組替えになった天彩峰里も際立っていました。

 

さて長くなってしまいましたが、これにて一件落着ですね。
今のところはずっとスクリーン鑑賞が続いていますが、またいつか出張が重なればこっそりナマ観劇と行きたいところです。

 

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村ランキングに参加中。クリックしていただけると嬉しいです。

コメント