彩風咲奈、香綾しずる、有沙瞳:2016年雪組「ドン・ジュアン」の脇役たち

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前記事からの続きです。
脇役としての彩風咲奈たちがとてもよかったので。

彩風咲奈の物静かなドン・カルロとその役づくり

最初に暗闇の中から身を起こしたときの彩風咲奈は、その悩ましげな視線と半開きの口元のせいで、まさに今うたた寝から起きたという爽やかな色気を舞台から発散させています。

昔ある舞台女優が「舞台で色気を出そうと思ったら絶対に奥歯を噛みしめないこと」と言っていましたが、このときの彩風咲奈はまさにそうした雰囲気をかもしだしていました。

ドン・ジュアンにおいては、発声も落ち着いていてハッキリとしていますし、歌も丁寧に歌いこんでいます。専科の歌姫美穂圭子とのデュエットも、ブレがなく美しく堂々と聞かせていました。

そして、何よりもその立ち姿の美しさと押さえた芝居の上手さ。エルヴィラへの想いは口に出さずともその表情と仕草に現れていますし、ドン・ジュアンへの友情もいつも一歩下がって控えめながら感情の吐露が返って痛々しく、理性の人の哀しみがひしひしと伝わってきます。

彼女の複雑な心理を表現する芝居力を今回は楽しませてもらいました。

 

エルヴィラは有沙瞳の生真面目な雰囲気が光る当たり役

有沙瞳を見たのは「阿弖流為」が初めてでしたが、あのときの彼女も一途な女性を好演していました。今回のエルヴィラはその「一途さ」が裏目に出る役ですが、それでもその強さと健気な雰囲気は変わっていません。

 

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一夜の契りからドン・ジュアンに恋い焦がれ、彼を何としても繋ぎ止めようと親に泣きつき、酒場では他の男に肌を見せてみたり、挙句の果て師団長の亡霊に導かれてマリアの婚約者ラファエルにマリアの不義を訴えます。

何と悲しい性でしょう…ドン・カルロの優しさも見えず、ドン・ジュアンがすでに自分に背を向けていることも受け入れられず、自ら悲劇に向かってまっすぐに行ってしまいます。

有沙瞳の歌の実力に関しては全く危うさを感じませんが、このドン・ジュアンでのエルヴィラの「一途さ」には少し苦言もあります。つまり一途すぎて時々単調なのです。表情が単調だと言ったほうがいいでしょうか。酒場で他の男に抱かれようとする場面でも、表情はそのまま「悲しみ」だけで自暴自棄の雰囲気があまり出ていないのです。ここらへんは、次の舞台を見てみないとわからないのですが、ひとつ「一途ではない」役も観てみたいと思った次第です。

 

香綾しずるのメイクと声に引きずられる

最初に出てきたときに「うわ」と声が出ました。
真っ白な顔に目と傷だけが強調されていて、まさに地獄からドン・ジュアンのためだけに戻ってきた騎士団長の亡霊です。

物語はこの亡霊の意のままに進んでいき、ドン・ジュアンへの復讐は「愛に死ぬ」ことを選ばせることで終わります。生きているときには娘を守ることも自身の死を避けることもできなかった騎士団長ですが、亡霊となってからは先へ先へと登場して物語をつくっていきます。

僕が香綾しずるの声に気づいたのは、まだ壮一帆がトップだったころの「心中・恋の大和路」。艶のある発声に聞き惚れていましたが、今回も低く深く、エコーを効かせているせいか、さらに恐ろしくこの世のものとも思われぬ存在感でした。彼女が出てくるたびに、望海風斗だけではなく観客にまで緊張感を覚えさせるのは、香綾しずるの実力でしょう。

余談ですが、この騎士団長の亡霊はオリジナル版のフランス語舞台ではそれほどの存在感がありません。元々は仮面をかぶっているだけですので、なにか埴輪の人形のようです。ドン・ジュアンとのからみもどちらかと言うとあっさりしています。

 

フラメンコダンスの迫力に関してはフランス語版に勝るものではありませんが、この潤色された芝居としてのドン・ジュアンは騎士団長とドンジュアンの確執を表に出していて絡みも多く、僕は宝塚版のほうが優れていると思いました。

いずれにしろ、この「ドン・ジュアン」は望海風斗だけではなく、脇役たちの感情移入が素晴らしく、それだけでももう一度観る価値のある舞台だと言えます。

 

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