2016年星組「こうもり」ドタバタ喜劇の中で光る北翔海莉と妃海風の歌唱力

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やっとブルーレイが届いたので、今回は「こうもり」についての感想を書いてみたいと思います。

シュトラウスの「Die Fledermaus」は言わば「ダブル不倫」のお話で、アルフレードは執事ではなくアイゼンシュタイン侯爵の婦人ロザリンデの元恋人ですし、皆が皆偽名を使っていることから起こるドタバタ喜劇です。オリジナルでもアドリブが多く、他のもっとシリアスなオペラ歌劇の有名な曲をもじって入れてみたり、オペラとは違い客席も大笑いしたり上手いアドリブにも拍手をしたりと楽しい舞台になっています。

実は主人公はファルケ博士ではなく、アイゼンシュタイン侯爵なのです。ですから最初北翔海莉がファルケ博士だと知ったとき、なぜ主人公じゃないんだろうとビックリしたくらいです。宝塚ではダブル不倫(たぶん宝塚には合わないからでしょう)をなくして、代わりにファルケ博士とアデーレの恋を加えています。そうでもしないとファルケ博士が主人公にならないからでしょうが、この恋があまりにも唐突すぎて少々納得が行きませんでした。ファルケ博士の出番を増やしていることはわかりますが、それでも主人公にしてはあまりインパクトのない役柄と言わざるをえません。そこが少々不満でした。

ただしそのストーリーの破綻を抜きにしても、有名な曲の数々を北翔海莉と妃海風の素晴らしい歌唱力が補っています。北翔海莉の歌は オペラ発声に従い(しかもそれを使いこなしているというところに驚きますが)会場一杯に響き渡ります。このひとは歌う歌によってその発声を使い分けているようで、ガイズのときとは全く違った実力を見せてくれました。何という「引き出し」の多さでしょうか。

画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MNjDhrW5OIg

そして、妃海風。この娘役がこれほど張りのある歌声とソプラノ張りの高いキイを美しく響かせられるとは知りませんでした。発声練習を地道に繰り返したであろうことは明らかです。舞踏会の場面では、彼女が会場の拍手を全てさらっていったことだろうと思います。それほど、素晴らしい歌声でした。

画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MNjDhrW5OIg

紅ゆずるは、今回はほとんど物語の中心と言ってもいい役どころで、さすがコメディーには強い男役としての力量を発揮していました。声は男役としてはかなり高く、どちらかというとなよなよとしているのが気になりましたが、これは演出のうちだったのでしょう。

画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MNjDhrW5OIg

もうひとり脇役ながら素晴らしく楽しい人物を演じていたのが、美稀千種です。酔っぱらいの看守フロッシュですが、実はフロッシュというのはドイツ語でカエルのことです。鼻の頭を赤くしてフラフラとよろけながらの演技で光っていました。こういう役を演じられるひとがいるのは、星組の層の厚さを感じさせますね。

礼真琴は序曲のワルツが美しかったです。彼女と妃白ゆあを中心に始まった古風で優雅なワルツですが、正統派男役としての礼真琴の見どころだと思います。ここには先日見たガイズのアデレイドちゃんの影も形もありません。

画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MNjDhrW5OIg

十輝いりすのフランク刑務所長は何だか彼女にピッタリの役ではありませんか。地味で淡々としているだけなのに何故か余計におかしい。これはガイズでもそうでしたが、彼女の舞台での持ち味なのかもしれません。退団が惜しまれるバイプレーヤーです。

画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MNjDhrW5OIg

脇役と言えば、専科の大御所汝鳥伶もファルケ博士の恩師役で登場していましたね。宝塚の舞台にはこういう重厚な引き締め役が必要なのです。久しぶりに朗々と味のある歌も披露していただけて、懐かしくなりました。

画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MNjDhrW5OIg

そして、もちろんこのひとのことを書かずにはおられません。星条海斗です。手も足もフルに使ったエキセントリックな演技でコメディーのセンスが抜群な専科の男役ですが、それはもう「メリー・ウィドウ」でも実証済みです。突然出るアドリブで会場の笑いを誘うシーンがいつもあります。今回は舞踏会の立役者オルロフスキー公爵で、オリジナルのオペレッタでは女性が男装して演じることも多い役。「お口にチャック!」から赤マントを大仰に拡げて飛ぶように立ち去る場面では、僕もテレビの前で思わず笑ってしまいました。

 

画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=MNjDhrW5OIg

単純なストーリーと楽しいドタバタ、そしてそれを盛り上げる歌の素晴らしさに、オリジナルにはない宝塚の豪華なセットが加えられて、北翔海莉のために作られた舞台と言っても過言ではないでしょう。星組生たちの合唱の美しさにも感動しました。そのせいかBD観劇後もウキウキした気分は続き、知らずオペレッタの曲をフンフンと口ずさんでいました。

次の記事は「THE ENTERTAINER」について、です。

 

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コメント

  1. さえぽん より:

    今晩は!
    原作では アルフレードはロザリンデの恋人なのですね。
    ファルケ博士とアデーレちゃんの
    切ない恋がもっと描かれていれば良いのにな〜「メリーウィドウ」の時みたいに。
    と思いましたが 元々原作にないものだから 仕方がないのですね。
    いったい ファルケ博士は アデーレちゃんをいつ好きになったのか 不思議でした。(一応説明はありましたが)
    でもオベレッタは心地よい歌声を楽しむものだと思えば 舞台の美しさとトップコンビ+礼君の歌の素晴らしさで 十分に楽しめました。
    宝塚ファン歴の浅い私は 美稀千種さんの演技を失礼ながら初めて認識したのですが 良いですね❗️
    凄く小柄な男役さんだと思いましたが 165cmでいらっしゃいました。
    舞台には こういう経験を積まれた 締めの役者さんが居ないと どうも学芸会みたいになってしまいます。
    下級生が髭をつけて 老け役をするのではね・・・
    改めて 美城れんさんの卒業が残念であります。
    十輝いりすさんは 柚希さんと同時退団しないで みちこさんの為に星組に少し残る事にしたとの事ですが 出来る事なら あと一作 一緒に作ってほしかったな〜
    本当にカッコいいんですもの・・・
    ほんわかした お人柄も素敵でした。
    続きの記事をお待ちしてます(*^^*)

  2. maki より:

    こんばんは。
    「こうもり」は観劇する前にどんなストーリーなのか調べてから観てみたら随分と違っていて驚きました。
    一緒に観に行ったヅカファンの友人によればzukamen様同様、ダブル不倫は宝塚には相応しくないからだろうということでした。
    あと、アイゼンシュタイン侯爵が最後に妻に追いかけられて這々の体で逃げ回るというカッコワルイ退場の仕方なのでトップスターはカッコよくなければならないという宝塚の掟に反するので北翔さんがアイゼンシュタインでは駄目だったんだろうと。
    とは言え、ストーリーの弱さをトップコンビの歌唱力と紅さん、星条さん、美稀さんのコメディエンヌぶりでカバーどころかお釣りが来るなと思いました。
    北翔さんの大劇場に朗々と響き渡る歌声は感動でしたよ。
    先日「桜華に舞え」をようやく観劇してきました。本当にタオル必須です!!
    北翔さんのあまりの格好良さにうっとりしつつ、本格的な殺陣に度肝を抜かれ、吹優との恋に胸を締め付けられて、そして涙・涙…。
    今週末に2回目行ってきます!!

  3. zukamen より:

    さえぽんさん、こんばんは。
    美稀千種は、LOVE&DREAMにも出ていて「薔薇のタンゴ」で小柄ながら迫力のダンス、そして最後には星組副組長として挨拶もしていました。歌も上手いですよ。(僕は「こうもり」で組長の万里柚美があまり歌えないのを見てビックリしました…)
    バイプレーヤーとしてそこかしこで舞台をしめてくれる生徒さんの存在は重要ですよね。いくら役者の集団だからと言って、20代の生徒さんたちにはできない役もありますから。
    十輝いりすもそんな意味では、いい雰囲気を作れるバイプレーヤーでした。

  4. zukamen より:

    makiさん、こんばんは。
    ああ、なるほど。
    アイゼンシュタインは情けない主人公で、そう言えば最後に奥さんに追っかけられていましたね。あれはカッコ悪いです、確かに。
    でもそれでも楽しい舞台でしたね。歌がとにかく素晴らしいです。
    いいなあ、2回目の「桜華に舞え」。
    必需品のタオルを忘れませんように、楽しんできてください。

  5. さえぽん より:

    「桜華に舞え」の一般販売が18日にありました。
    予想はしてましたが ネットが繋がった11時過ぎには完売でした。
    オンライン先行販売時も チャレンジしましたが同様…
    もはや 清く 正しいやり方では宝塚は見れないようです。
    特に東京❗️
    「エリザベート」も立ち見がいっぱいでした。
    最近お世話になってる 生協の貸し切り公演も 「桜華」はなかったので がっかりでした。
    でも 北翔海莉の最後の舞台は 絶対に見ますよ(*^^*)

  6. maki より:

    ヅカファン友人による「こうもり」の主人公アイゼンシュタイン侯爵がなぜトップスターでは駄目なのかという解説の続きを改めて聞きました。
    とにかく、アイゼンシュタインが好人物ではないということに尽きるそうです。
    恐妻家で女好き(原作ではダブル不倫をする)、使用人達からは敬われていない(メイドちゃんズから給金が安いと言われてます)などなど…。
    同じ北翔さんが演じた「メリーウィドウ」のダニロとはだいぶ差があるキャラです(ダニロは友達思いで国王や大使からの信任も厚く、マキシムの店員や踊り子達から好かれている)。
    アイゼンシュタインのこういった人間くさいところがが魅力的なキャラクターなわけですが、トップスターは格好良くなければならないという決まりは外せないので「こうもり」はああするしかなかったというのが友人の解説でした。
    トップスターになる前だったらきっと北翔さんがアイゼンシュタインを演じたに違いないとのことでした。
    それも観たかったなぁ…。

  7. zukamen より:

    さえぽんさん、こんばんは。
    僕も一度だけオンライン先行販売にトライしたことがあります。スゴイですね…一体だれがあの凄まじい接続難を超えて予約できるのでしょうか。東京の「桜華に舞え」はまた高騰するチケットとの戦いになりそうですね。
    さえぽんさんのチケット奪取がかないますように。

  8. zukamen より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    makiさん、こんばんは。
    なるほど、宝塚の男役トップには似合わない役かもしれませんね。
    確かにカッコよくないです。
    でも北翔海莉のアイゼンシュタイン、きっと面白かっただろうと思います。彼女はこういう役が好きそうですし。
    僕も観たかった…。

  9. 日和香 より:

    クロクロ マルゴ フゥフゥ♪
    酔っ払い2人が飲み直しだ!と上機嫌で唄っていた女性の名前、メリー・ウィドウだったんですね(笑)
    ネット上にMXTV(東京ローカル)「カフェブレイク」という、タカラジェンヌが上演中の映像を観ながら解説するトーク番組の映像があったので、「こうもり」や「ガイズ」などの放送回を見てみました。
    北翔さん曰く
    ・「メリー・ウィドウ」が終わった時、演出の先生に「いつか『こうもり』をやりたい」って言ったのを覚えていてくださった
    ・でも「主人公である宝塚のトップスターが、最後ぼろぼろになって終わるのはいかがなものか」…と問題になった
    ・なのでタカラヅカ版は「復讐するファルケ博士の手のひらの上でみんなが踊らされる」話に
    ということでした。
    たしかにあの豪華煌びやかな「夢の舞台@ファルケ博士」に、七色の羽をまとったこうもり博士が登場した瞬間、あの世界が完結したように思えました。
    あの舞台上で起こることはすべてファルケ博士=北翔海莉さんが「愛の絵の具で描く世界」手のひらの上の世界なんですよね。
    なのでラブシーンも、整合性のない夢のようにいきなりやってくるんだなと(笑)
    でも初めて観た北翔海莉さんのキスシーン…あの背中が「みちこ沼(?)」への最後の一押しでした!(爆)ぐっと廻って最後に右肩がほんのちょっと、くいっと上がるところ…ずるいです。
    歌に関しては
    ・娘役さんは原曲通りのキー。それ以上あげるわけにいかないので、男役は(超低音まで)3オクターブの音域を出してる
    風ちゃん曰く
    ・お稽古では緊張してノドが締まってしまい、一回も出なかった。でも舞台に出てお客様の期待に満ちた笑顔を見た瞬間、高音がでた。お客様の力はすごい!
    北翔さんが自分から「こうもりをやりたい」とおっしゃったのだから、zukamenさんがおっしゃるように、アイゼンシュタインを演じたかったんだろうな〜と思います(笑)
    それにしてもこの舞台…華やかで緻密なセット、砂糖菓子のように色とりどりなドレス、豪華な歌声とダンス、そして少女まんがのようなロマンス…私が漠然と抱いていた「ザ・宝塚」をやっと観られた!という感動と、北翔海莉さんの一挙手一投足に開いた口が塞がらないほどみとれ続けることが許された、奇跡のような時間でした。
    そして終演後最初にチェックしたのは「看守役の人の顔写真」です(笑)
    おまけ:
    フランス語のアドリブ合戦、私が観たときは1、2、3などをやったあと…
    フランク「これはボクのジュボ〜ン(ズボンを示しながら)」
    フランク「いつか住みたい〜?」
    アイゼンシュタイン「あ?あぁアザブジュバ〜ン?」
    客席で吹きました。

  10. zukamen より:

    日和香さん、こんばんは。
    えっあれは「メリー・ウィドウ」の女性たちだったんですか!
    全然わかりませんでした。
    なるほど、全てはファルケ博士の手のひらの上で展開されるお話になっていたのですね。
    確かに、妻に追っかけられて終わるんでは、男前のトップが台無しです…。
    原曲通りのキーで歌うのは、北翔海莉と妃海風だからできたのですね。
    北翔海莉の歌が素晴らしいというのはわかっていましたが、妃海風の声には驚きました。
    しかし、ジュボ〜ンにアザブジュバ〜ンですか…そりゃ客席だって笑っちゃいますね。