今回は前記事に続き「天は赤い河のほとり」のキャストについての感想です。
宝塚オリジナルの常でなるべく多くの生徒さんに役を与えようとするため、時々誰が誰だかわからなくなりますが(いや、それは僕がまだ生徒さんたちの名前と顔をあまり覚えていないからかもしれませんが)、主要キャストとその他気づいたひとたちの感想です。
真風涼帆の大きな舞台
ひたすらかっこいいですね…笑顔が大輪のバラのようだった朝夏まなとに比べて、真風涼帆は大柄で物静かな男性といった風情があり、中性的な男役が多い劇団の中ではかなり男性的な男役と言っていいと思います。
僕が初めて彼女を見たのは、2014年FNS歌謡祭の映像をもう何年もあとに偶然開いたときでした。柚希礼音と和田アキ子が「愛の讃歌」を歌っていた場面です。後ろではタキシード姿の真風涼帆と真っ白なロングドレスの夢咲ねねが踊っていました。
SNSでは嬌声と♡が飛び交って「誰?あの素敵な黒髪の人は!」と話題になったそうですが、確かに映像では後ろのダンスが気になって、前で歌っている柚希礼音と和田アキ子が映るたびにもっと後ろを見せてほしい気分になっていました。それほど優雅でうっとりするダンスだったからです。
さて、そして組も替わって宙組トップとなり、お披露目公演で見せてくれたのがこの「天は赤い河のほとり」のカイルです。全編通して観て思ったのは「こりゃハーレクイン・ロマンスの世界だ」ということです。
ハーレクインと言えば、もう全世界の若い女性が甘いため息をつきながら読む恋愛ロマンスで、出てくる男性はことごとく背が高くハンサムで、しかも大金持ち強引傲慢キザで女性が求める男性像を余すところなく具現していることで有名です。
カイルはまさにそうした男性のひとりであり、ユーリが恋に落ちるのは当然と言ってもいいほどのカリスマを持っています。まさに、真風涼帆ではありませんか。
彼女の表現するカイルはあくまで誇り高くそしてユーリを心から愛する男性で、しかも愛しているからこそユーリを現代に返そうとします。いや、僕はストレートの男なので恋には落ちませんが、これならファンたちが皆真風涼帆に落ちてしまうのは目に見えています。
余談ですが、ハーレクイン・ロマンスには宝塚で上演してほしいような小説がたくさんあります。誰か推薦してくれないかなあ…と、歯医者の待合室でざっと斜め読みしながら僕はいつも思っていました。日本語版も出ていますよ。
芹香斗亜の押し出しの強さに驚く
芹香斗亜というと、僕が観た彼女は花組当時の「金色の砂漠」でした。あのときも二番手だったのでしょうか。ただし、役柄のせいもあり、どちらかと言うと印象の薄い舞台でした。
ところが、この作品のウセル・ラムセスで僕はやっと芹香斗亜の「華」を見たのです。東映ヤクザの親分のような話し方には少々とまどいましたが、それでも彼女が出てくるだけで舞台が大きく見えました。
銀橋での素手の戦いでは、真風涼帆に負けず劣らず凛々しい姿で、あまりの荒々しさに銀橋から落ちないかとハラハラしながら見ていました。最前列の観客たちはきっと息をのんでいたことでしょう。
この作品唯一のコミカルな場面、ユーリへの求愛の歌でもこのぶんだとユーリはラムセスの手に落ちてしまうのではないかと思うほどに、セクシーで若々しく傲慢な男性を見事に演じていました。
役柄のせいだけとは思えず、僕が最後に観た2017年の「金色の砂漠」からこの「天は赤い河のほとり」までの、1年間の芹香斗亜の成長の姿がありました。
愛らしい星風まどかは後半がすばらしい
歌うと素晴らしい声なのに、言葉遣いが今風の高校生なのか、早口でずさんだなと最初思いました。なぜ気になるんだろうと考えていたらふと気づきました。高校生の言葉遣いは普段聞いているぶんにはあまり気になりません。それは、その言葉が「普段の会話」でなされるからです。舞台と普段の会話では発声も間の取り方も違います。
宝塚トップたちが招かれてドラマに登場すると、皆さんあまりにもドラマチックな発声で浮いてしまうのはそのせいなんですね。柚希礼音もそうでした。
つまり「現代の高校生の言葉遣い」は宝塚の「舞台」には向いていないのです。
だから、後半になってユーリがヒッタイトの時代に溶け込んでいくと、言葉遣いが自然に聞こえるようになるのです。ユーリに戦隊の指揮がまかされてからの声が段々と美しく、そして堂々としてくるのがわかりました。
僕はまだ「ウエスト・サイド・ストーリー」も「オーシャンズ11」も観ていませんから何とも言えませんが、こうした高校生役がうってつけのとても若い娘役が(ウエスト・サイド・ストーリーのマリアは初々しいから適役でしょうが)オーシャンズ11の成熟したテスをどう演じるのかとても興味があります。
宙組の層の厚さに満足した舞台
僕にとっての宙組とは、恥ずかしながら「背の高い、カッコいい男役の多い組」という印象でした。
でも、それだけではなく「脇」がいいのです。
例えば、トトレス役の松風輝。どこかで見たなあと思ったら、和希そらの「ハッスルメイツ」にも出ていましたね。今回のネフェルティティお付きの芸術家は、誇り高きネフェルティティの胸像を作リながらのセリフに、彼女に対する敬愛と(もしかしたらウルヒのナキアへの献身的な愛と同じく)ほのかな恋愛感情もあったのではないかと匂わせる、実に味わい深い物静かな演技を見せてくれました。
そして、純矢ちとせ。
残酷で冷ややかで、それでいて胸の内にはまだウルヒと実の息子への愛が燃えている、哀しい人生を送る女性を、艷やかに演じていました。なぜ、現代の宝塚には次々と現れては消える「可憐な娘役」しかいないのでしょうね。
昔は、初風諄、上原まり、高宮沙千のような上級生の娘役がかなりいました。歌も演技も円熟期に入るような生徒さんたちです。
純矢ちとせの歌声を初めて聴きましたが、その美しい歌声に驚くとともに、すでに退団が決定しているとのことで、ああ、また円熟期の生徒さんがこれからというときに発っていくのだなあと思いました。
さて、澄輝さやと。
彼女は普段は男役なのですね。今回は絶世の美女ネフェルティティを気高く演じていましたが、脚本のせいなのか、もう少し女性としての哀愁をにじませることによって、観客の同意と憐憫に訴えてもよいのではないかと思いました。上を向いて高貴さを出すだけでは、もったいないような気がしたのです。
「ハッスルメイツ」でその技量に舌を巻いた和希そらは…どちらかというとあまり出番のない役でしたね。ちょっと残念。
いずれにしろ、これで宙組に興味が出てきました。
次回の出張では「ウエスト・サイド・ストーリー」と「オーシャンズ11」を購入して、また感想を書いてみたいと思います。
追記:…と思ったら、版権の関係で「ウエスト・サイド・ストーリー」はDVD出版は不可能だと教えてもらいました。なんとも残念です。
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