以前湖月わたるについて色々と書きましたが、僕は実際の彼女の舞台は全く観たことがありません。彼女が活躍していた時期はちょうど僕が宝塚から離れていた時期と重なり、知ったのは去年ひょんなことから観始めたネットの動画と親切なファンの方が送ってくれた録画のみでした。
正直歌はそれほど上手とは思えませんが、ダンスと芝居、そしてその立ち姿のカッコよさではやはり抜きん出ていると思います。宝塚OGは100周年を挟んで表舞台に登場することが多かったようですが、皆歌を披露するだけでダンスを披露するOGはほんの一握りでした。その一握りの中のひとりが湖月わたるです。Argentangoから始まってCHICAGOの宝塚OGとハリウッド舞台の再現で素晴らしいダンスを見せていましたから、これは日々の鍛錬の成果なのでしょう。
もうひとつ湖月わたるについて特筆すべきことがあるとすれば、それは彼女が「女性として舞台に立つ」のと「成熟した宝塚男役OGとして舞台に立つ」のを完璧に両立させていることです。
男役だったひとがまずするのは「取りあえず髪を伸ばすこと」と霧矢大夢が言っていましたが、その言葉どおりほとんどの元男役が髪を伸ばしスカートを履き男役だった自分と決別する道を選んでいます。宝塚の外の世界で活躍するには、もちろん本来の女性としての役につくわけですから、それは当然でしょう。ところが湖月わたるはその選択をせずに、男役の顔を自然に保ちながら本来の女性としてもその肢体を自由に駆使して活躍しています。
例としてあげれば、2014年の「セレブレーション100!宝塚~この愛よ永遠に~」では、星奈優里を相手役としてあの懐かしいボレロを披露していました。僕が心底ビックリしたのは、それが僕が最初に観た彼女の2006年当時のボレロとは違っていたからでした。
成熟しているのです。
動きも表情も相手役星奈優里へのリードも、2006年のそれよりははるかにねっとりと濃い雰囲気を醸し出し、これはちょっと宝塚では無理だろうと思うほどのエロスでした。
2006年当時のボレロは白羽ゆりとのデュエットでした。こちらと比較してみてください。雰囲気が全く違うことに驚くと思います。
湖月わたると星奈優里の成熟のボレロは、宝塚の「清く、正しく、美しく」にはそぐわないかもしれません。しかし退団してすでに10年以上、そして年齢も在団時代の20−30代とは違い中年の域に達しています。
僕たちがいつも見ているのは若い宝塚なのです。
それを超えたところにある「成熟した男役」としての湖月わたるに、僕はいたく感動していました。他の「男役トップであった女性たち」が「男役の自分を捨て去る」ことで前進してきたのと違い、彼女はそれを両立させる術と努力と雰囲気を保ち続けていることに。
どちらがいいというのではなく、彼女の選んだ道です。「男役トップ」が男役として40代に入ることのできない宝塚という枠の外で、あらたに自分の進むべき道を開拓している彼女からは、今後も目が離せないような気がします。
<追記>
古いボレロの動画を探していたら、他の男役たちのボレロも見つけました。壮一帆と龍真咲のボレロ(2013年)と龍真咲と明日海りおのボレロ(2013年)です。彼女らのダンステクニックを分析するわけではありませんが、比較するのも興味深いと思います。
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