星組「龍の宮物語」のキャスト:瀬央ゆりあ、有沙瞳、天寿光希の演技

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宝塚OGたちの色々なニュースが入ってきて、「龍の宮物語」のキャスト感想が遅れてしまいました。前回からの続きです。

 

2019年星組バウホール「龍の宮物語」の幻想的な物語と複雑な伏線の数々
明治時代の幻想的なストーリーというだけしかわからぬまま、「龍の宮物語」を観ました。 ブログやTwitterでは大変な人気で大体の予想はつきましたが、それでも第一部第二部ともにあっという間に終わってしまい、生徒さんの名前と顔が一致するようにも...

 

特に瀬央ゆりあ、有沙瞳、そして天寿光希の演技に目を奪われました。

 

瀬央ゆりあの誠実で優しい清彦

 

瀬央ゆりあが阿弖流為で武将を演じたときには、僕は「武将というより貴族」と書きました。

 

「阿弖流為」キャスト感想:壱城あずさ、瀬央ゆりあ、有沙瞳
前回の記事が礼真琴だけで終わってしまったので、もう少しキャストの感想を書きたいと思います。出張が重なり、少々更新が途絶えてしまいました。 壱城あずさの芝居に涙する 僕は壱城あずさという生徒さんをあまりよく知りませんでした。 89期ですから中...

 

美しい立ち姿と雰囲気はそのまま、今度は明治時代の書生姿で傘を差して現れた清彦は、誠実さを絵に書いたような性格です。玉姫を助けたと言っても戦ったわけでもなく、殴られて財布を差し出していまし、水底で玉姫を救ったことを讃えられたときも否定しています。

今までの宝塚のカッコいい男役ステレオタイプではなく、どちらかと言うと情けなくも優しい男性としての清彦です。彼女の大きな瞳がおどおどと右に左にうつろうとき、そしてその瞳が伏せられるとき、僕は清彦の優しさが裏目に出るのではないかと心配していました。

ところが、その伏せられた瞳が憧れと恋心の熱い思いを持って玉姫に向けられるとき、その切ない仕草が返って物語が悲劇に向かって進むことを予言したのですね。

これは瀬央ゆりあにとって当たり役でしょう。

彼女以外にこれほどおどおどと優しく、それでも玉姫に惹かれていく切ない思いをもつ青年を好演できる男役はいないように思います。

最後の挨拶で緊張して汗までかいていましたが、そこには瀬央ゆりあと清彦の誠実さと気弱さが重なるようで、思わず微笑んでしまいました。

 

有沙瞳の玉姫に全ての感情の発露を見る

 

僕はかなり有沙瞳の舞台を観ていることに気づきました。「阿弖流為」の佳奈、「ドン・ジュアン」のエルヴィラ、そして「銀二貫」の真帆。

今回の玉姫は、有沙瞳にとってまさに渾身の演技力を見せつけてくれた役柄でした。
この世のものとは思えないその化粧と衣装。そして、またそれだけではない強い憎しみをたたえたまなざしと、清彦に対するときの優しげなまなざしの違い。憎しみと愛情の間で揺れ動く感情のほとばしり。

「あなたはずっと悲しかったのですね」
清彦に抱きしめられて言われたとき、龍の姿の有沙瞳の姿は「やっとわかってくれるひとが現れた」という安堵感と涙で、観ているこちらも胸がしめつけられました。

悲しみに押し潰れされそうな心を「憎しみ」で満たしてひたすら今日まで水底で生きてきた玉姫。その心を揺らめかせたのは、「憎しみ」からはかけ離れた清彦の誠実さと愛だったのです。

この「龍の宮物語」の主人公は玉姫です。
この短い2時間半の間に、僕たちは彼女の何十年何百年にも渡る苦しみと救済をまざまざと感じることができました。そして、それを観客に伝えることのできた有沙瞳に喝采を送りたいと思います。

 

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天寿光希の「人間ではないもの」として

 

龍神(火照)の天寿光希は、真っ白な顔に強いアクセントを入れ、この世のものとも思われぬ龍神の姿そのものでした。

彼女の舞台では「ガイズ・アンド・ドールズ」の救世軍のオジサン、アーヴァイト・アバーナシーが挙げられますが、老成した言葉遣いとは裏腹に若々しい雰囲気で、白髪交じりのヒゲでもつけたほうがよかったのではないかと思ったことを覚えています。

ところが、この龍神。
落ち着いた荘厳な雰囲気と抑えた発声で、彼女が出てくるだけで舞台に一気に不思議な水底の情景となります。

そして、「あなたのは愛ではない、人が人にかける呪いと同じだ!」と指摘され、それまでの冷静な態度とは一転、逆上して清彦を殺そうとします。

そして悲劇を自ら終わらせてしまったときの絶望感。「神」をここまで変わらせてしまった「愛」とは何だったのか…これからの龍神はその問いを何千年たとうとも忘れることはないでしょう。

天寿光希のように、立ち姿も美しく、しかもこうした難しい役に見事な表現力を見せる生徒さんはとても貴重な存在だと思います。ぜひこれからもこうした重要な役をこなしていってほしいと思いました。

 

救いのフィナーレでほっとする

 

このまま終わってしまったら、観客は涙を隠しきれず悲しく劇場をあとにしたことでしょう。ところが、こうした1本ものの宝塚公演にはフィナーレのちょっとしたショーがあります。

今回のように皆泣いてしまうような芝居では、このフィナーレで皆ほっとしたのではないでしょうか。

男役たちのキレのいいダンス。
いや、こういうダンスが最後に見られるから宝塚観劇はやめられないのです。しかし、人間界の役柄の生徒さんたちはまだしも、水底龍の宮の「人間でないもの」たちの化粧から、このフィナーレの普通の化粧に戻るのも大変だったでしょうね…。そして、また挨拶では龍の宮化粧に戻るとは、いやはやお疲れ様です。

そして、待ちに待った美しいデュエットへ。
ここでは有沙瞳の華やかな笑顔が見られて、僕もほっとしてしまいました。瀬央ゆりあのリフトはちょっと危なげでしたが、それでもなんとかこなしていましたし。

そう言えば、僕は昔彼女のリフトについて書いていましたね。

 

男役のリフトとお姫様抱っこに感心する
稽古動画をつらつらと眺めていました。 舞台ではパッドを入れて肩幅も大きくし、ウエストも目立たないような衣装です。男役のひとたちがなるべく男性に見えるように補助しているのですから当然です。ところが稽古ではもちろん皆さん普段着ですから、どちらか...

 

いつか見てみたいと思っていた「瀬央ゆりあのリフト」が見られて、大変満足しました。

 

こういう舞台を映像で観ると、たちまち今すぐにでも日本に行ってナマの舞台を堪能したいと思い始めます。まだまだコロナ禍があとをひく日本の芸能界ですが、一日も早く収束してほしいと切に願っています。

 

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