僕は実は「エリザベート」の宝塚舞台も「エリザベート・ガラ・コンサート」も、ナマの舞台を観劇したことがありません。宝塚版「エリザベート」は1996年初演ですから、僕がちょうどぱったりと宝塚を観なくなった時期と重なります。雪組の最後の観劇は杜けあきの退団公演、1992年の「忠臣蔵」でした。だから、僕は「エリザベート」の爆発的ヒットを知らずに今まで来たわけです。
Galaというフランス語自体が「特別興行」のような意味ですが、確かにキャストを見ただけでめまいがするほどの歴代大物たちが名を連ねています。
今回僕が観たのはフルコスチュームバージョンで、皆当時の衣装を着て舞台に立っていますから、舞台装置が簡素でも美しい舞台の雰囲気が伝わってきます。いらぬお世話ですが、10ー20年前の衣装がまだするりと入ってしまう彼女らの体型維持にも驚きました。
ただし「コンサート」なので、皆片手にハンドマイクを持っています。いや、コンサートと言っても、フルコスチュームで所々はしょってはいるものの、芝居はそのままでセリフももちろんあります。それなのにハンドマイクという、何とも興ざめな物体があるので、
少々違和感を覚えました。それもかなり大きい真っ黒なモノで。
…という不満を頭に抱えてぼんやりと幕間の席に座っていたら、僕の後ろに座る女性たちがおしゃべりを始めました。「あのマイクは雰囲気ブチ壊しよね」という言葉に思わず振り向いて同意しそうになりましたが、それを押さえて聞いていると、「でもあのマイクがあるからコンサートとしての著作権料しか払わないで済むらしいよ」という声が。「あれをヘッドセットのマイクにすると、芝居二幕ということになり、コンサートより高額の著作権料になるんだって」なるほど。
どこからそんな詳しい情報を仕入れてくるんだろうと思いましたが、そう言えばこの僕のブログでも様々なファンの方たちが色々と教えてくださるので、そういうひとが客席に一人二人いても不思議ではありませんね。
僕としてはもちろんコンサートだけより「宝塚OGとしての円熟した芝居」を通して観てみたいと思いますが、それはかなわぬことなのかもしれません。
「エリザベート」の宝塚舞台に関しては、もちろん戻ってきた時点で過去の様々な舞台をチェックしました。いくつかの舞台は映像でも観劇しています。観ていないのは、北翔海莉がフランツ・ヨーゼフを演じる2014年の花組舞台と、つい最近の宙組公演です。
湖月わたるについては、何度かこのブログにも書いています。不思議なひとです。
彼女を初めて生で見たのは夏のCHICAGOの舞台でした。あのときは女性の強さとコケティッシュな媚を、あの脚線美で見せられたからたまりません。それについてはコチラで詳しく書いています。
その麗しい女役とは打って変わって、今回は宝塚時代に演じたこともある「狂言回し」のルキーニです。余談ですが、このLuigi Lucheniという名前、イタリア語ではルイジ・ルケーニです。なぜドイツ語オリジナルのミュージカルで英語読みのルキーニという発音にしたのかわかりませんが(ドイツ語でもルケーニです)、もしかしたら一番最初に上演の打診をしたときに英語で交渉が行われたからではないか、と僕は思いました。
さて、湖月わたるです。
退団して10年以上たつというのに、このひとほど男役が自然に演じられるひとはいないのではないでしょうか。視線、肩の仕草、腕の上げ方、足の運び、背中の演技。全てに男役の美学が感じられてただただビックリしてしまいました。それも、ルキーニなどという無精髭にくたびれた黒の衣装、どちらかと言えば宝塚の高貴な男役とは一線を画する役です。
このガラ・コンサートでルキーニを演じるのは、現役の轟悠と退団したばかりの龍真咲、そして湖月わたるです。彼女が最も長く「男役の世界」から離れているのに、こんなふうに自然な男性としての演技ができるのはどうしてなのか、僕は考えてしまいました。
彼女はダンスの名手です。そして皆さんもご存じのように、宝塚男役OGでダンスを見せているひとはそれほど多くありません。ほとんどの元男役たちは、ミュージカル、そして芝居と歌の世界に入ってしまいました。また、100周年のOG企画(Super Gift!など)で「男役としての」激しいダンスの妙技を見せたのも、元トップとしては湖月わたるひとりです。こうした身体の使い方の鍛錬が、女性と男性が混在する「稀有な女優」として現在も活躍させる所以なのでしょう。
アンドロギュヌス、両性具有のひと。
それが湖月わたるなのかもしれません。
しかし、「エリザベート」のルキーニでは、「狂気」をそれほど前面に押し出していません。むしろ「狂言回し」としての役割に徹していて、宝塚公演のときよりはるかに円熟した、そして肩の力の抜けた演技ですが、シリアスなほかの役者たちの中で、ひとり客席との会話などを楽しく見せて物語の進行を助けています。そのぶん、客席に冷たい空気のただようようなあの轟悠の上目遣いの視線、そして抑えた男役の低音で表現した「ぞっとするほどの狂気」が感じられないのです。どちらかと言うと「陽気なイタリア男」の部分が多く、なぜあのような行動に走ったかという不気味な性格の片鱗が見えません。
轟悠のルキーニを見たのは映像ですが、それでもルキーニへの恐怖が会場を包んでいるような錯覚に捉えられました。龍真咲のルキーニでは、反対にあまりの明るさと笑顔に返って狂気へと翻る性格の恐ろしさが感じられたのです。どちらも今回ルキーニを演じていますから、それが宝塚公演のときとどう違う面を見せてくれているのか、とても興味があります。
ただし、あくまでも「コンサート」ということであれば、芝居としてははしょった部分も多いこのガラ・コンサートで、その演技をミュージカル「エリザベート」のものとして批評することはできないと思います。
いずれにせよ、このルキーニを演じる直前には「雪まろげ」でかわいい芸者を演じていたということですから、湖月わたるはこれからも僕たちをビックリされてくれるでしょう。しかし、たまには彼女の男役姿、または男役ダンスなどの宝塚OGとしての底力をぜひまた見せてほしいと願っています。
そう言えば、客席とのおしゃべりで舞台から降りたときに、客として江夏豊、神田正輝、宝塚OGで現東京宝塚劇場支配人の甲にしき、そしていまだ麗しい声を聞かせてくれる初風諄が来ていたのが紹介されました。
長くなりそうなので、その他の感想は次の記事で。
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コメント
私が宝塚に戻ったきっかけは、新生宙組の「エリザベート」のDVDを貸して頂いたことです。これを何度も何度も観ました。なので姿月さんのトートが一番好きです。ルキーニのわたるさんも、何かクセになった感じで好きでした。
ヅカメンがおっしゃる通り、退団したジェンヌさんでダンスを続けている人は少ないです。以前、わたるさん、水さん達のタンゴのショーを観に行きました。素晴らしかったです。トップをして退団したジェンヌさんは決して若くありません。体力的にもきついと思います。筋肉を維持するのも大変な事と想像します。でも敢えてダンスで勝負している姿勢に感動しました。ダンスの名手と言われてきたジェンヌさん達の退団後、なかなかダンスを見られない事は残念ですね。
先日、テレビで礼音さんがアルゼンチンタンゴに挑戦する番組を放送していました。かなり苦戦していましたよ。
そうそう、安寿みらさんのダンスも素晴らしいです。
OG公演の「DREAM A DREAM]は観ていらっしゃいませんか?
これ、とってもお勧めです。
ガラコンサート、行きたいと言っていた人(あまり宝塚には詳しくない人)に「ガラだから歌ばかりだよ。話知らないとつまんないと思うよ」なんて言ってしまった私が恥ずかしいです。本音はチケット取るのに苦戦しそうで、面倒だっただけなのですが。
そう言ったからには一人で行くわけにもいかず、指をくわえていたのですが、zukamenさんの詳しい感想で、自分の愚かさに気がつきました。
生で観たのは花組、宙組、東宝と3回だけですが、去年のエリザベート10か月連続放送でほとんど観ました。勝手にベスト配役なんて考えて、フランツは北翔海莉、ルキーニは轟悠なんて思っていましたが、わたるさんのルキーニもじっくり観てみようと思います。
それにしても、マイク一つで著作権変わるのですね。勉強になりました。
ヅカメンさん、先程のコメントで、呼び捨てにしてしまっていた事をお詫びします。
ここぞ!と思う公演を逃さないヅカメンさんの強運、
少しあやかりたいです。
湖月さんはスカステ画面で、主に退団後のお姿を見る事の方が多いですが、
きっちりと男役で出ておられて、ストイックさを感じます。
現役を知らない目にも、う~わっスゴイ、惚れてしまいそう、な感じです。
ルキーニが何故、エリザベートを刺したのか、
演者によって解釈が違って見えます。
(エリザ10か月連続放送がありましたので)
狂気は秘めていたのか、知らずに出てしまったのか。
誰ルキでも、それぞれ納得していたりします。
北翔さんのフランツは、奥の手を使ってでも是非ご覧ください。
カメラワークにもよりますが、
フランツの心情がわかるような表情を、幾つか見ることが出来ました。
大劇場に行くと、必ず1つか2つ、
ファンの方同士のおしゃべりから、細かい情報を得る事が出来ます。
そう、後ろの席の人や、女性トイレの長ーい行列の最中とか。
ふり返って詳しくうかがいたい気持ちを、いつも抑えています。
ハンドマイクと著作権がどうとか…の謎が解けました。
箇条書きで失礼いたしました。
本年もよろしくお願いいたします。
のぶ太さん、こんにちは。
僕は過去の「エリザベート」は初演から全て逃しているので、今となってはとても残念です。
初演と姿月あさとの宙組のだけでも見ておけばよかったです。
おお、ありましたね、タンゴ舞台。ご覧になったとは羨ましい。
OG公演の「DREAM A DREAM」見たことがありません。。。ちょっとコッソリと探してみることにします。
それから、「呼び捨て」ですが、全く気づきませんでした(笑)。
お気になさらないでくださいね。
今年もどうぞよろしくお願いします。
きょんさん、こんにちは。
場面によってははしょっているものもあり、歌も少し抜けていたりで、ダンスは全くありません。
それでも、OGたちの実力のおかげで素晴らしい舞台を堪能しました。
そう言えば、去年は「エリザベート10か月連続放送」などという羨ましい企画があったのですね。
全部通してみたらどんなに楽しいことでしょう。。。
著作権の話は全く知らなかったので、そういうものなのかと僕も勉強になりました。
ピノ・グリさん、こんにちは。
今回はラッキーでしたが、北翔海莉の舞台は全て見逃していますからねえ。
これで強運と言えるのかどうか(苦笑)。
全てもう一度通してみたら、エリザベート各組の違いがもっと色々わかるような気がします。
昨年の全組放送で、皆さんは見ているのでしょうね。羨ましいなあ。
北翔海莉の「エリザベート」はすでに持っているのですが、まだ見ていないのです。
見るものが多すぎて、どこから手を付けていいのやら。
とりあえず、今回のエリザベートの感想のあとで、どれを見るか決めることにします。
ピノ・グリさんのおっしゃるように、やっぱりフランスヨーゼフかな。
お久しぶりです。
帰国の間に1回でも観劇されて良かったですね。
ところで2013年花組バージョンの『エリザベート』
既にお持ちなのに見てらっしゃらないとはもったいない。
私は『こうもり』観劇後に映像作品を買いあさった時期にはまり、特にフィナーレ最初の『愛と死の輪舞』の感動が忘れられず、
手持ちの映像作品の中では『風の治郎吉』と並んで多くの回数見ています。
やはり楽曲が素晴らしく、ライブCDの存在を知って購入してからはCDの方をより活用しています。
歴代の『エリザベート』はどうしてもキャストに一長一短がありますから、これが一番、というのは個人の好みでしょうが、私にとっては、トート、フランツ、ゾフィーが素晴らしいこの作品が一番なんです。
ぜひ早目に視聴されることをお薦めします。
マリコフさん、こんばんは。
そうですね、やっぱり北翔海莉のフランツ・ヨーゼフを見るべきかも。
今回のエリザベートガラの感想が書き終わったら、見始めると思います。
ありがとうございました。
確かに不思議な感じですね。フルコスチュームなら余計にそうお感じになるかも知れませんね。CSのタカラヅカニュースでちらりと映った映像は、うーん、と思いましたから。私が観た初演バージョンは、皆さん普段のお化粧(よりも少し濃い目でしょうか?)に自前の洋服でしたから、そこまで違和感はなかったかも知れません。自前とは言え、役に合わせた洋服や髪型で、歌い出すと演じる人物に見えるのは流石、でした。今回のチケットは一路さんファンの友人が譲ってくれたのですが、友人は大阪と東京の両公演を観劇、やはり轟さんは凄かった、と言っていました。私も初演キャストが好きですが、…フランツは北翔さんかな。高嶺さんもお上手なんですが、やはり北翔さんファンですから。
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たれぱんださん、こんにちは。
ハンドマイクは「コンサート」だから仕方ないのでしょうね…。
初演バージョンをご覧になったのですね。僕はこれが一番見たかったのですが、残念ながら時間が合わず諦めました。
自前の衣装ですと、本当にコンサート形式でしょうね。トークもあったと聞きましたから、本当に見たかったです。
北翔海莉も今では宝塚OGですから、次回のガラ・コンサートではフランツ役でぜひ登場してほしいです。
今回のガラ・コンサートはDVDが出るそうですから、予約しようと思っています。